お気に入りの映画を一つ借りてきた。
駅前のコンビニで購入したポップコーンと飲み物を広げ、いよいよ視聴開始。
二人には大きすぎる部屋は高野さんが勝手に契約したせいで、二人には狭すぎるソファーは離れた距離感をこの人が嫌がったからだ。甘すぎるという自覚はありつつもそれを許してしまうのは無論惚れた弱みというやつだ。高野さんは高野さんで俺が本当に嫌だった止めるから―とか言って止めた事など一度もないのだけど―真面目な顔をして告げる度に、い、嫌じゃないです、とか答えてしまうのだ俺は。
それは兎も角、映画だ映画。お互いの吐息が聞こえる距離で、二人食い入るように画面を見つめる。次々と送られるコマに二人で笑って怒って、時には驚きながら。
やがて訪れる感動的なシーンに、隣で息を呑むような音が聞こえた。つられるように見上げれば、そこにはぽろぽろと涙を零す高野さんの姿。一瞬息を詰めて、思わず笑ってしまった。
なんであんたが先に泣くんですか。ここは昔見た時俺だって感動したところなのに。なんで同じところで泣くんですか。泣きたいのはこっちの方なのに。あんたが泣いたら俺が泣けなくなるじゃないですか。なんで、だから、どうして。そんなに嬉しそうに泣くんですか。幸せそうに笑うんですか。そうやって手を握ってくるんですか。俺に微笑みかけるんですか。唇だけで笑うあんたに、なんで俺がこんなに嬉しくならなきゃいけないんですか。幸せだなと思わなきゃいけないんですか。大好きだと言いたくならなきゃいけないんですか。
内心で文句を繰り返しているうちにつんと想いが目に込み上げてきて、けれど必至にそれを堪えるように高野さんの掌を握り返した。胸が熱くて、でも重ねた手はそれ以上だった。
高野さんが優しい人で良かった。
俺の好きな人が、高野さんで良かった。