夏の季節。吉野が祭りに行きたいと騒ぎ出す頃合。仕事が終わったら連れて行っていくという交換条件みたいな約束を結び、けれどそれは彼による原因でほぼ実行された試しがない。しかしそれらはあくまで結果から遮る原因の九割であって、残りの一割は吉野の珍しい努力によって実現される場合もあるのだ。


夜祭の中、二人で屋台を眺めてそれでもはしゃいでるのは吉野だけだ。お好み焼きを買ったかと思えば、たこ焼き屋の前に物欲しそうに立っている。かき氷を食べたかと思えば、いつのまにかラムネを両手に持っている。射的をしたかと思えば、止めろ誰が世話をするんだという静止も聞かずに腕を濡らして金魚すくい。自分と言えばそんな吉野を追いかけては説教し、面倒なことをしていないかと隣で気を揉むばかりだ。吉野のせいばかりではなく、自分のこういった細かい性格も彼が自分を母親扱いする所以なのだろうけど。それを簡単に治せていたらこんな苦労はない。


それでも笑っている吉野の顔をみると心底ほっとするのは紛れもない事実で。


祭りの最後の定番に、吉野は必ずと言っていいほど神社のおみくじを引く。少女漫画として成功しているんだからそんなものを引く必要は無いだろうと指摘してみるものの、祭りの醍醐味だから良いんだよと返される。説得をするよりも早く、彼はちゃりんと小銭を転がし赤い箱の中から一つの紙片を取り出した。


大吉。


嬉しそうに微笑む吉野が、トリも引いてみたらと穏やかに誘う。首を振って断り、吉野に帰るぞと一言だけ告げて背を向けた。


そんなものを手にしたって何の意味もない。分かりきった答えは、きっとその解釈すらも歪ませる。凶であればこの恋が叶わないという結末を予測。反対に大吉であれば、彼を諦める日の到来を知る。選択は多くあっても、答えは一つだ。いずれにせよ今の自分にとってはどちらも辛辣な未来には違いないから。


「じゃーさ、半分にしよう。俺とお前で大吉の半分で中吉。どう、幸せだろ?」


たかが紙切れ一枚の言葉が信じられないのだから。どうして俺が神の存在を認められる?




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