そもそも自分という人間は叶わないような願いをする人種でもない。


例えば今日の夕飯はカレーライスが良いなあとか、明日は上手くお気に入りの漫画を買えるかなあとか。それは予定だと言われればそれに等しく、希望だと指摘されればきっと間違いでもないはずだ。将来の夢を聞かれて漫画家と答えたのは未来にそうなるような気がしたからで、総理大臣になりたいとう無謀な夢を語ることなど一切ない。想像は形にしてこそ意味がある。例えばほら、目の前に自分が描いた原稿用紙みたいに。自分の頭はこんなふうになっているんだという分かりやすい指標。


考えたことを考えたままに実現すること。それはいかに難しいことかは知っているけれど、自分にとっては当てはまらない。それは夢を諦めるというわけではないことをここで宣言しておこう。大層な夢など語ってもそれだけで満足し、その努力を怠れば願いが叶うはずもない。夢を語るということは、その達成のために努力する覚悟を決めるということなのだから。それを自分は成し遂げているだけのこと。だから俺は自分の夢をこんなにも簡単に実現することが出来たのだ。


将来の夢を叶えつつある次の夢はなんとも素朴なものだったに違いない。島を一つ買ってそこに自分好みの屋敷を建てる。という無謀なものでは勿論なく、平屋でのびのびと時間を過ごしたいというささやかなものだった。別に今でも出来ること。けれど今はやらないこと。今は今しか出来ないことに夢中だから。


散財もしないので無駄にお金も貯まりつつある。叶えられるはずの夢だった。


けれど最近になって思うのだ。俺はそこで一人住んで一体どうするつもりなのだろう。きっと漫画を読み続ける一生には違いないけれど、一人で暮らすには寂しすぎやしないか。友人を招けばいいだけの話だけれど、それが永遠に続くわけではない。だから誰か一人ずっと一緒に居てくれないかなとふと思った。真っ先に羽鳥の顔が浮かんだ。


手を伸ばせば叶えられるはずの夢。だからそうして、彼の服の裾をぎゅっと握り締める。


「どうした…?何か用か」
「えっと、その」


掴めば、叶う願い


「い、一緒に暮らしませんか?」


二人ならもっと。


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