○月△日


今日は大学の入学式でした。予想以上の人、人に、抗いむなしく波に流され人生初の迷子を経験する羽目になりました。もう大学生だというのに、凄く恥ずかしいです。けれど不幸中の幸いか、大学に入学したら一番最初に行きたかった場所、大学の図書館を見つけることが出来ました。悠然と佇む建物を覆う緑。 澄んだ空気。入学したてでまだ入館することは出来ませんでしたが、醸し出す雰囲気に、風の流れに、どこか懐かしさを感じたのは事実です。


憧れの先輩も、この大学に入学したということは知っています。


何年も言えなかった想いはがんじがらめの箱の中に閉じ込めて、それでもどうしてももう一度会いたくて。でも執拗に追いかけることはやめようと思います。


人との出会いに無意味なものは無くて。もし再び出会うことが出来たなら、そこには何か意味があるということ。つまりそれは意味が無ければ出会うことはないということ。だからその偶然性に自分の未来をかけてみようと思います。


もし、また会えたらという話ですが。


そう言えば今日、変な人にジロジロ見られました。中庭の人気が無いところで、静かに本を読んでいた時です。多分同い年位の学生さんでしょうか?真ん中分けの黒髪の、でもちょっとだけふてぶてしそうな人でした。


□月○日


不思議なことがありました。俺は宇宙人とか幽霊を余り信じないタイプの人間です。もちろん本ではそういったモノが登場することは良くあることで、けれどそれは文章の中だけの話です。


今日いつも通りに図書館に行ったら、見慣れない女の子がいたんです。小学生くらいの少女でした。誰かが連れてきたのかと考えたのですが、周りを見ても誰もいません。迷子かな?と思いついた時、その少女が自分に向かって掌を動かしこちらにおいでと手招きしました。


天然だと噂されるくらいの鈍感な俺から見ても、その光景はどう考えても異様でした。それでも、足は勝手に進むのです。誘われるように歩けば、本棚の陰に一旦少女は隠れ、けれどそれを追えば、少し遠くで同じように手を振っている。まるで夢の中の出来事みたいで、なのに頬をつねると現実でした。


そうしてとうとう少女が消えたとき、初めて見えた人の姿がありました。


それは、自分がずっと昔から追いかけていた先輩でした。


◇月×日


大学に入って、初めてサークルに入ることになりました。特に興味があったわけではないのですが、一人本を読んでいた時に無理矢理攫われたのです。入学式で見かけた、あの木佐さんという先輩に。その場所でまたもや嵯峨先輩と顔を合わせることになりました。


これは偶然なのでしょうか?


最近自分は誰かに操られているような気がしてなりません。


▽月○日


先輩に嫌われました。


本当は最初から気づいていたのです。先輩が自分のことを嫌悪の目でしか見ていないことを。それでもまた出会えた事実に浮かれて、その真実を忘れかけ、調子に乗ったのがいけなかったのです。


人と出会うのは意味があるということ。


嵯峨先輩との出会いは、きっと俺が嵯峨先輩を諦める為だけに用意されていたのですね。


ごめんなさい、先輩。先輩、大好きです。どうしても大好きだから、好きになってごめんなさい。それでも、好きです。大好きです。


▽月×日


嬉しくて、何を書けばいいのか分かりません。とりあえず、熱が出ました。先輩からうつされたんだと思います。でも、大丈夫です。幸せです。


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×月○日


忙しくてしばらく日記を書く事ができませんでした。ええと、何を書けばいいのでしょう?久し振りすぎて、ちょっと書き方を忘れてしまって。


あ、そうそう今度みんなと一緒にバーベキューをすることになりました。しかも読書愛好会の人達ばかりではなく、読書研究会の人も一緒に。相川さんにそのイベントのことを話せば、人数は多い方が楽しいでしょ!とあっと言う間に決まりました。


読書研究会には羽鳥先輩の幼馴染さんがいる様で、いつもあまり笑わない羽鳥先輩も少し楽しみにしているようでした。木佐さんは当初、なんで相川になんか教えちゃったの、と文句を言っていましたが、相川さんの雪名くんも誘ったわよ、という言葉に押し黙ったようでした。そんな光景を美濃さんが楽しそうに眺め、嵯峨先輩はいつも通り俺の隣で一緒に笑っていました。


バーベキューをする本当の理由は、お別れをする為です。使い古されたサークル棟。明日から解体が開始されます。幼馴染の杏ちゃんは、少し泣きそうな顔をしていました。実のところ、俺も凄く凄く悲しくて、ちょっとだけ泣いてしまいました。


人にとっても物にとっても永遠と呼べるものは何一つ存在しません。だからいつか別離の時がやってくるのです。今までもそうやって生きてきたのです。そしてこれからも同じように生きていくと分かっていても、この悲しさは止められません。


だから一秒一秒を瞼に、この胸に焼き付けるのです。いつか未来で、この光景を繰り返す為に。


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○月○日


ありがとう。さようなら。またどこかで。




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