トースターにパンをぶち込んでから、玄関口に向かい郵便受けから新聞を引き抜いた。寝ぼけ眼で確認すれば、その中に何通か手紙が挟まれていた。二通は所謂ダイレクトメール。海外でもこんなものあるんだなーとぼんやり思いながら、もう一通を確認すれば、所謂エアメール。久しぶりの日本からの。

一応、名前と住所を確認しても、一向に顔が思い出せない。誰?誰だっけ?と記憶の中を懸命に探してみても、ちっともこれっぽっちも見つからない。―やばい、俺。とうとう痴呆が始まったか。まだかなり若いのに。若年性?

とか何とか考えながら、べったりのりがついた封をべりばりと音を立てて破いた。牛乳片手に持ちながら、中の手紙を確認すれば、拝啓小野寺君、とある。お元気ですか?元1年2組の皆は、大変元気です、と続けられる文章に、俺はああ、と頷いた。

学生時代に一番大好きだった人の記憶の中から殺した。大好きで大好きで大好きで、心も身体も全てその人に捧げて、なのに自分自身の想いを全て拒絶され、だからその人の存在を頭の中から消した。


一番の人を忘れていたら、その他大勢なんて勿論覚えているわけがない。


同封された写真を見ても、やっぱり何も思い出せなくて、結局はそれをテーブルの上に投げ捨てた。
忘れていたことを思い出してみても、結局何もかわりはしない。だからもういい。

タイミングを見計らったように、パンが焼けた。

※※※
61、逃げ回る(字書きさんに100のお題)


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -