朝起きたら外は晴れ晴れとした天気で、朝食に自分の好物が用意されていた。それだけのことで自分はもの凄く嬉しくなってしまうんだと言えば、お前の幸せって案外スケールが小さいんだな、と友達に笑われた。本当は大人になったら大きな家を買って、そこに本棚を敷き詰めて自分専用の図書館を作りたいという夢があるのだけど。そういったことは口に出してしまうと叶わない気がして、喉から漏れそうになる言葉を我慢しては飲み込んでいる。欲を出せば、叶えたい夢がもう一つ。好きな人と一緒に住むだとか無茶なものではなく、未来も先輩と一緒にいれたらいいなというささやかなもの。今だって先輩の顔を遠くで見るだけで幸せなんだもの。先輩が笑いかけてくれるだけで、その日一日は軽く有頂天になってしまう。これって凄く幸せで、とっても大切なことだと思う。


人生は悲喜こもごもだ。感情は常に上書きされるものだから、幸せだって長くは続かない。先輩が幸せそうなら自分だって嬉しいけれど、先輩が辛そうならば幸福の余韻なんてものは一瞬で消える。たった一人の人間を幸せにすることは凄く難しい。でも先輩という一の人物が俺を幸せにしてくれたのだから、きっと俺にだって出来るはずだ。不幸というトンネルは、中にいる人間にその時間が永遠だと錯覚させる。幸せという継続状態を疑わず、不幸の終焉の信じない人の思考回路は非常に厄介で。幸せが永遠に続くことなんてないし、だから不幸だって必ず終わりがくるものだ。先輩はそれを知らないから。気づかないから、何時までたっても出口が見つからないのだ。事実に気づきさえすれば、先輩は今すぐにでも幸せになれるのに。


それを教えるのが自分の役割だというのなら本望だ。おこがましいかもしれないけれど、だってそれはつまり先輩を救うのも幸せに出来るのも自分しかいないということだから。先輩が幸せなら自分も幸せ。幸せというものは、他人の不幸から成り立つものではなく人々の幸福の中から生まれるものなのだ。

絵空事の様な夢を一つだけ願うなら、数ヵ月後、数年後、ううん、十年くらい先だっていい。ふとした瞬間にあー、幸せだな、なんて言葉を先輩がうっかり口にして、そう言わせた原因がもし俺だったとしたら。誓ってもいい。予感がするんだ。



俺はこの先一生その言葉だけでこれからも生きてゆけるって。



逢魔が時=夕暮れ dawn=夜明け dawn of the birth =生の初まり
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