朝早く来客があった。


詳細を尋ねれば午前十時頃の出来事だったらしい。疲れている体は無意識に睡眠を欲し、時間の感覚を麻痺させる。インターフォンが鳴らされたのはラジオ体操が始まる位の早朝だと思いこんでいたが、それは勘違いだったらしい。そもそもその誰かの来訪すら夢だと考えていたので、証拠の段ボール箱を目にした時は些か驚いた。


「宅配便?俺の?」
「いいえ、俺のです。実家から送られてきたみたいで」
「…つーか、何で俺の家に送ってくるわけ?」
「だって木佐さんの家にいる時間の方が長いじゃないですか」


言い分は確かに事実であるが、今俺が伝えたいのはそういうことではなくて。雪名には雪名の家があるというのに、わざわざ違う場所を送るように指定してきた息子は両親にどういう説明をしたのか、ということが聞きたかったのだ。実際にくどくどと説明されたらそれこそ自分が本気で怒るのは目に見えているけれど。せめて個人情報を親に伝えたこと位は先に俺に説明があっても良いんじゃないかと思う。公共の場所でキスしようとしたり色々非常識な人間であることを理由にその不備を納得しようとしたのだが。男同士という世界に引きずり込んだ自分も十分非常識なので、言葉を噤むことにした。


沈黙を決め込む俺のそばで、びりりと段ボールを固く閉ざしていたガムテープが剥がされる。中には、お米やら野菜やら乾物やら。息子の体を気遣う親の心を反映したかのような食料品。おそらく半分は俺の腹に入るのだろう。自分だって数年前までは両親から色々食べ物が送られてきたが、今はとんとご無沙汰で。だから何だか新鮮な面持ちで、雪名と一緒になって段ボール箱を覗いた。


「何これ?」
「DVDです。母親が好きな番組を録画して、一緒に送ってくれるんです」


再生機にDVDを押し込んで、二人仲良く画面の前に座る。大画面のテレビの中にいる人間が、サイコロを転がして目が出た数に合わせて次の行動を選択するのだという。旅のテンションかカメラに向けられているせいか、何でもないことを面白可笑しく馬鹿笑いしている男二人。傍で雪名がくすりと笑う気配がした。


「雪名、コンビニに行こう」
「はい?」
「アイスが食べたい」
「今ですか?」
「今ですよ」


近くのコンビニに行こうとする雪名を引き留めて、少し遠いコンビニの道を選んだ。俺の意図に気づいた雪名の口元が緩み、笑う。頬を赤らめて俯き、道に落ちる小さな石ころをつま先で蹴った。予想外に力がこもっていたのか、随分と遠くまで転び電柱に当たり止まる。


男しか好きになれない俺が雪名を好きになって、雪名も自分を選んでくれて。違う未来を想像して悲観することは何度もあるけれど、今この時お前が傍にいてくれて純粋に嬉しい。



投げた賽が戻らないのなら、賽の目くらいはせめて自分たちで。



何処に行こうか?何処まで行けるか?きっと大変なこともあるだろうけれど、テレビの中にある二人みたいに、何度サイコロを転がしても一緒に笑っていられますように。


大丈夫。お前と一緒ならどんな目が出てもきっと楽しい。



つま先 アニメ一期第九話「The die is cast」(賽は投げられた)+北海道発某バラエティ番組より





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -