たまに親から段ボール箱が送られてくることがある。
それは衣服だったり、実家にあって邪魔だからと送られてくるものだったりと多種多様だ。
正直千秋の家にあっても仕方ないものまで入っているときもあるが、いらないといってもあんたのものなんだから自分の家に置いておきなさいと言われておしまいだ。
反論したところで言い負かされてしまうから、最近ではなにも言わないでありがたくもらっておいて家の奥底にしまっておく。
しかし、たまに生モノが入っているので一応見ておかないと大変なことになる。
一度、京都に旅行に行ったのかお土産の西京漬けが入っていたにもかかわらず、放置しておいて異臭を漂わせたことがある。
お土産が入っているのは知っていたけれど、それがちょうど修羅場の時だったので放置していてすっかり忘れてしまって、発見した時には大惨事だった。
異臭に気付いて処理をした羽鳥に締切破りのことも含めて3時間近く正座で怒られたことから、それ以来きちんとすぐに中を改めることにしている。
せっかくのんびりできているのにまた羽鳥のお説教はごめんだと、段ボール箱をがさがさと漁っていると中から一冊の本が出てきた。
今まで送ってきた本は実家に置きっぱなしにしてあった漫画くらいで、顔が隠れてしまうほどに大きな本なんて送ってくることもなかった。
その大きさの本に心当たりもなかったので、なんだろうと訝しげにそれを取り出す。
ページをめくると小さいころの写真から大体成人するくらいまでの写真がぎっしりと入っていた。

「なあなあ! トリ! これ見てみろよ! 」

キッチンで食事の用意をしていた羽鳥に声をかけ、アルバムを食卓へと持っていく。
ちらっと見ただけだが、そのアルバムの中には千秋だけではなくて羽鳥の姿も見えた。
小さい姿が懐かしくて、思わず羽鳥を呼んでしまった。
水を使っていたのか、エプロンで手をぬぐいながら羽鳥が千秋に近づく。

「なんだその本は」
「アルバム! 段ボール箱に入ってた! 見てみろよ。小さいころからあるんだぜ」
「懐かしいな……。でもなんだっていきなりアルバムが送られてくるんだ」
「なんでだろーなー? たまには思い出にひたりなさい、とか? 」
「それで日頃の態度を見返しなさいってことか? お前、全然成長してないもんな」
「そんなことないだろ! 色々と成長してる、はず! 」
「ああ、そうだな。 最近は身体の反応が成長してきてるしな」
「か、からだって! 」

唐突に夜の話を出されて、途端に顔に血が回っていくのが感じられた。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。確かに、前に比べて羽鳥とするのが気持ちよくなってきている。
元々、羽鳥とそういうことをするのは気持ちよくてどうにかなってしまいそうだったけれど、それがもっともっと強くなっていっている。
羽鳥に触れられるところが熱くなって、溶けてしまいそうになる。
だから否定はできない。でも、それをなんでもない日常で言われるのは恥ずかしくてたまらないし、思いだすだけで爆発してしまいそうになる。
顔を真っ赤に染めて羽鳥を睨みつけるも、素知らぬ顔でアルバムを見ている。
ここで更に言い返しても墓穴を掘ってからかわれるだけだと、火照った頬に手を当てながら千秋も大人しくアルバムを眺める。

「小学校低学年までは俺の方が若干背が高かったよな」
「小さい頃はな。中学に入るころには追い抜いてただろ」
「それにしても見てても全然記憶に残ってないなー。まあ赤ん坊のころなんて覚えてる方が無理だけどさ。」
「俺はおぼろげだがなんとなく覚えてるけどな。……お前は本当に昔から寝ている顔も変わらないな」

羽鳥の指が一枚の写真をなぞる。
そこに視線を移すと、だいたい小学校入学前だろうか、幼いころの羽鳥と千秋が一枚の毛布を分け合って昼寝をしている姿が写っている。
千秋の口からはよだれが伝っており、なんの悩みもなさそうな幸せな顔ですやすやと眠っていた。

「えっ、俺こんなふうに寝てる? 」
「ああ。能天気な顔をしてぐっすりな」
「……よだれは垂らしてないよな? 」
「さあな」
「どっちだよ……。トリだって昔はこんなふうに幸せそうな顔して寝れたんじゃん。それなのに今は眉間にしわ寄せて眠ってさ、もっと安らかにねむれねーのかよ」
「どっかのだれかが苦労ばかりかけてくるからな。もっとスムーズに仕事が進めば眉間にしわをよせる必要もなくなるんだが」
「…………すいません」

羽鳥の苦労の原因の大半は千秋の所業によるものだから何も言い返せない。
申し訳なさから謝り、またアルバムをぱらぱらとめくっていく。

「小学校の運動会、卒業式、中学の修学旅行……卒業式。んで、高校のか……。なんかお前と写ってるの多くね? どのページ見てもトリいるんだけど」
「幼馴染で学校もずっと一緒だったんだ。当たり前だろ」
「どの写真見てもトリがいるからさー。俺たちってずっと一緒だったんだな、って改めて感じる」
「いつの記憶を探ってみても必ずお前の隣にいたからな」
「んで、今も隣にいるしな」
「離れることもできないからな」
「編集者と漫画家だもんな。仕事関係もべったり! 」
「それだけじゃないだろ? 」

アルバムに視線を落としていた羽鳥がふいに千秋の顔を見つめる。
その視線に気づいた千秋も顔を上げて羽鳥の方を見る。
急に真面目な顔で見つめられるとどうしたらいいのかわからなくなってあわててしまう。
羽鳥が求めている答えはわかる。でも、それを正直に言って羽鳥を喜ばすのもなんだかしゃくだ。
どうしようかと視線をさまよわせていると、羽鳥の口元が緩むのが見えた。

「トリ! お前、俺の反応見て楽しんでるだろ! 」
「困ってるお前が面白くてな。すまん。恋人同士なんだからこれからだってずっと一緒だ」
「……はずかしいやつ」
「お前相手にだったらいくらだって恥ずかしい言葉が言えるさ」

恥ずかしさで視線をそらし、もう一度アルバムを眺める。
ぱらぱらとめくっていくと最後のほうのページには写真が全然入っていないことに気付く。

「あれ、最後の方、全然写真ないな」
「成人式あたりから写真を全然撮ってないからな。ほら、たぶんこのアルバムの一番新しい写真は成人式の時のだ」
「あ! 懐かしいなあ。俺もトリもスーツ姿だ。お前このころからスーツ似合ってるよな。俺なんか着られてるって感じなのに。でもなんで成人式からの写真がないんだ? 」
「俺もお前もお互い忙しくなって、どこかに出かけることもなくなったからな。それに二十歳すぎてまで成長記録の一環として写真とらないだろ」
「じゃあ、それ以来二人の写真ってないよな? 撮った覚えないし」
「そうだな。ないな」
「そっかー……」

今はお互いに会おうと思えば会える距離にいるから別に写真が手元になくたって構わない。
でも、このアルバムが20歳で終わっているのが気にくわない。それに、折角あきページがあるなら全部使い切ってしまいたい。
そうだ、と千秋は羽鳥にここで待ってろと言って、いつも外に出るときに持ち歩いているかばんを寝室に取りに行く。
確か中にこの前資料を取りに行ったときに使ったインスタントカメラがあったはずだ。まだ数枚残っていたから現像に出さなかったのだ。
どうせなら余ってる分を今羽鳥と写真を撮って使ってしまおう。そして、それをアルバムに入れればいい。

「これで写真撮るぞ! 」
「なんだ急に」
「いいから、早く俺の隣に来いよ」

戸惑っている羽鳥の腕を引っ張って無理矢理横に立たせる。
そして、腕を精一杯伸ばして二人がフレームに入るようにしてシャッターを切る。
カメラのフラッシュが辺りを明るく照らした。まぶしさで目を閉じてしまった気がするのでもう一枚、と羽鳥に言ってもう一度撮る。

「よし……! 後は現像するだけだな」
「なんでいきなり写真なんだ」
「えっ、だってアルバムまだ写真入るし、ちょうどカメラも残ってたから」
「だからといって、あんな撮り方じゃ絶対にぶれてて見れるもんじゃないだろ」
「そんなこと言ったってこれインスタントカメラだからタイマーないんだから仕方ねーだろ。いいんだよ、とりあえず俺とトリが写ってればそれで。このアルバムに新しく入れるんだから」
「これからも撮るのか? 」
「まあ機会があればなー。それでこのアルバムにどんどん入れてく! 全部使い切るんだ! 」
「そうか……。全部使い切ることにはどうなってるんだろうな」
「どうって、俺とトリの写真でいっぱいだよな。赤ん坊から大人まで全部」

『俺たちの成長のあかし!』なんて笑えば、『そうか』と羽鳥に優しく微笑まれる。
幼馴染でずっと一緒だったから当たり前のようにどのページを見ても羽鳥がいた。
だから、恋人という新しい関係が追加された今でも、新しく写真をいれるページに羽鳥がいなければいけないのだ。
どんなページを見ても羽鳥と千秋がいるようにこれからもアルバムをつくっていく。
これからもずっと一緒だってあかしにもなるように。


羽鳥と千秋の言葉のやり取りが、本当に二人らしくて。楽しげに会話をしている光景が目に浮かぶようです。今までも一緒だし、これからも一緒だよ。写真がその証拠でもあり約束にもなるんですね。なんだかじーんとしました。本当に素敵な作品をありがとうございました!



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -