魚が食べたい。


衝動的に湧き上がる食欲に相反して、時は既に午後十一時を回る。新鮮な魚を購入できるスーパーは既に閉店済みの頃合。妥協と言うには斜め上の発想ではあるものの、コンビニの鮭おにぎりで我慢することにした。

キャンペーン実施中の店内にて、抽選券を獲得したのはついでに購入したビールのせい。欲しいわけでもないのに、店員に促されるままに箱の中から紙切れを引けば、途端にホットココアに変化する。さて、どうしたものか。コーヒーすらブラック派の自分は、甘ったるいココアなんぞ飲めはしない。喉を潤すという役割すら果たせないそれは、暖を取るカイロ代わりに成り下がる。

イベントで人を釣ろうとするのなら、もっと良いものを用意すればいいのに。景品を目的に大量購入する輩を除けば、ジュース一つでまたこの店に来ようと思う人間なんていやしない。釣りたい魚がいない場所にわざわざ赴く釣り人はいないし、もしいるとするのなら餌と時間と労力をすり潰す大馬鹿者だけだろう。


餌と場所とタイミング。全ての条件が満たされない限り、欲しいものなど手に入らない。企画の発案者は、その点に気づくべきだった。


店の自動ドアと通り過ぎたところで、偶然にも隣人と遭遇した。嫌そうな顔を浮かべる奴に、これやるよ、と手にしたばかりの飲み物を与えてやれば、碧色の瞳を大きく揺らめかせ。受け取ったジュースと俺の顔を見比べて、ありがとうございます、と小さく彼は呟いた。お疲れ、と何気なしに声をかける。ふにゃりと、小野寺の表情が一瞬だけ緩んだのを見逃さなかった。


条件は全て揃った。


ほら、大物が釣れた。


プレゼント

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