玉の輿失敗ね、と友人にからかわれもしたけれど、実際のところ彼の顔にも財政状況にもさほど興味が無かった。彼がどこぞやの御曹司だと知っても、へえ、そうなんだという程度。元彼がしつこいから付き合って。一つ返事で頷いたのは好感度が高かったけれど、それはただのお人好しというものだ。


付き合っているふりだというのに、彼はまるで本当の恋人のように私に接した。家までの送り迎えは何一つ嫌な顔をせず、イベントがある時にはいつだって洒落たプレゼントをしてくれたものだ。何故こんなに良くしてくれるのか?ただのふりなのに。彼が酔った際にそれとなく真意を尋ねれば、初めて聞いた彼の初恋話。昔出来なかったことを今しているだけ。昔幸せだったことを、ただ繰り返しているだけ。だから、別れを決めたのはその瞬間だった。


彼がしたいのは私との恋愛じゃない。昔好きだった人との恋愛だ。本当に好きな人を私に重ねて、身代わりとしてその恋を楽しんでいるようなもの。身代わりにしているのは私も同じで、だから彼を責める筋合いなんてあるわけもなく。ただ、どうにもこうにも我慢できなかったのは、その時には既に本気で彼のことが好きだったからだ。


プレゼントをくれたりはしたけれど、彼から一切貰ったことのない言葉。それは彼が本当に愛する人に告げるべき言葉。そして、私には永遠に告げることの出来ない言葉。


お金が好きだったの?顔が好きだったの?


慰めようとわざとらしく尋ねる悪友に、私は答えた。


どちらでもなく、彼が好きだったのよ。



元カノ


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