大量の紙袋を抱えながら自宅へと戻ると、予想通りだな、と木佐さんから玄関口で声をかけられた。ヤキモチは焼かないんですか?と問えば、毎年恒例のことだから、今更ぎゃあぎゃあ騒がない、というなんとも大人びた答え。それでも付き合い始めたばかりの頃は、それなりに嫉妬をしてくれていたようだが。数年という時を経た今は、その関係と心情に随分と落ち着きを見せたようだ。

「この中に義理チョコはいくらあるかな?」
「普通は本命チョコがいくつあるか、ですよね?」
「逆でいいんだよ、お前の場合」

コーヒーを片手にずず、と飲み込むその姿。今までになくあんまりにも余裕なそれに、胸がざわりと騒いだ。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでも、寂しがっている表情ではない。だというのに妙に嫌な予感がした。まさか…また別れようとか言い出すんじゃないだろうな?危ぶみながらその様子を探って見るものの、その気配はない。…気のせいか。

携帯電話が唐突に鳴った。確認すれば、大学以来の友人から。どうせ中身は、今年も義理チョコしか貰えなかった、どうせお前は本命チョコしか貰ってないんだろ!を延々と愚痴を聞かされるだけ。故に、そのまま放置プレイ決定。

「出なくていーの?」
「大丈夫です。どうせたいした用事じゃないので」
「ふーん。王子様に愛の告白をしたいんじゃねーの?」
「そんなんじゃありませんよ」

飲み干したマグカップをテーブルに置くと同時に、その腕を掴んで体ごと抱きしめた。風呂上りらしいシャンプーの匂いが鼻腔を掠める。苦しいとでも言うように木佐さんはもぞもぞと体の動きを変えて、ようやく定位置に落ち着くとゆっくりと背中に腕を廻した。

「木佐さんは、俺にくれないんですか?」
「…もうあげた」
「え?…俺、貰った記憶が無いんですが」
「記憶がなくても、あげたものはあげたの!」

ほら、あそこに置いてあるだろ。木佐さんが指を差したのは持って帰った紙袋。は?え?と動揺しながらもう一度その顔を覗き込むと、見せるしてやったりの表情。ああ、成る程。先ほど様子がおかしかったのは、このせいかと思い当たる。どうやら俺が電話に気を取られているうちに、自分のプレゼントをあの中に隠してしまったらしい。木は森に隠せ。チョコレートはチョコレートに隠せ、か。

俺の、頑張って探してみろよ。やや挑戦的なその台詞は、自分が俺に愛されている自信があるせいか否か。

「ヒントくらい下さいって」
「見たら一瞬で分かるよ。お前なら」

あとは教えないと笑う木佐さんをもう一度だけ腕に閉じ込めて、そんな木佐さんも好きです、と告げれば、当然だろ、という答えが返ってきた。

綺麗な包みを解いた箱の中にあった、たった一つのチョコレート。その表面には、大きく「義理」という文字が描かれてある。彼の台詞が解答そのものだったことに気づき、子供だましみたいなお遊びに少しだけ笑ってしまった。

沢山贈られた愛の中、それでも俺が選んだのは木佐さんの愛だから。愛してるよと想いが籠められたプレゼントの中、お前なんかそんなに好きじゃねえよ、とでも言いたげなその文字がいかにも木佐さんらしくて。見つけましたよ、という俺の声に、またもや彼は当然だろ、と嬉しげに呟いた。


隠れても埋もれても、ちゃんと見つけてあげるからね。


君だけを愛するために。





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