毎年この時期になると送られてくる読者からのプレゼントが楽しみで楽しみで仕方ない。月ごとに編集部からダンボールごと渡されるファンレターも嬉しいものだが。何よりバレンタイン近くになると、それに加えて甘いお菓子も添えられる。単純計算、幸福度二倍。床に広げたお菓子の数々、何処から食べていこうかとやや悩む。

流石に全てを全て一人で食べきることなど出来はしない。日持ちがしそうなクッキーだとかはアシスタントの子や知人に配ることにして。けれどそれを差し引いたいわゆる生物の菓子もそれなりの量だ。かといって、頂いた愛情を無碍に捨てることも出来ずに、結局はそれらを自分だけで食べきる羽目になる。

いくら甘いものが好きだといっても、これだけ食べれば流石に飽きる。もう一ヶ月は甘いものとか食べたくないし見たくもない。ぼやいていると、いいから起きてさっさと夕食を食べろ、というトリの声。

そういえば、バレンタインだっていうのに、こいつから何も貰ってはいないよな。

はたと気づいた新事実。一応恋人同士なのだから、こういうイベントをむしろもっと大事にすべきじゃないんだろうか?いや、でも今チョコレートを貰っても、食べる自信は皆無だし。

もやもやしながら箸をつけたのは、大好物のトリのお手製玉子焼き。口の中で咀嚼して気づいた。いつもは甘いはずのそれが、今日のは甘くない。砂糖の量がかなり少ない。

…こういうのが多分、トリなりの愛なんだよなー、と。ぼんやりしながら考えた。食べないのかと訝しむトリの声に、ああ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた、と言い訳しながらそそくさと食事を再開する。ええ、ちゃんと食べ切りますよ。もう甘いものが食べたくないと文句を言う俺の為に、トリが考えて作ってくれた料理だもの。

お前がくれた愛情を、絶対に捨ててなるものか。誰にも分けてやらないし、これは一生俺のもの。なあ、知ってるか?トリ。トリがくれる「愛」以外は、俺はこんなふうに思わないんだよ。


…俺も甘いものが欲しい。


そういう台詞は食べ切る前に言えよ、という文句は、濃密な空気に飲み込まれる。あー、うん。そういう例えですか。一時は引いた顔を、迷いながらやや前面につきだした。くすりと、小さく笑う声が耳に届く。


愛する人がそれを欲しいのだというのなら、捧げてやろう。だって今日は愛する人に愛を贈る特別な日なのだから。


降りてくる唇は、砂糖のように甘くはないけどね。



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