年末年始のテレビ番組は得てしてつまらないものだ。特に酷いのは年末ではなく年始。各局とも延々と笑えないバラエティ番組の垂れ流し。まともに見れたのは最初の一時間程度だ。テレビをつけたまま眠りに入るという極上の誘惑に勝ったのは、ただ単に借りていた映画のDVDの存在を思い出したという単純な理由。

本題の映画の前置きのCM。心引かれた記憶が蘇り、僅かながら時間の取れるこの機会に見てみようか、と気が向いた。それだけの話だ。

鑑賞の結果を語れば、時間の無駄だったと思えるほど退屈な映画だった。あのCMに騙されたといっても過言ではない。あれだけ見たときは凄く面白そうに見えたのになあ、と内心がっかりする。映画のCMというのは重要なシーンの集まりで、つまりはそれが一番の見せ場なのだ。心が揺さぶられる映画というものは、そのシーンへの過程までも楽しめるものだが、今回は違ったようだ。この映画はどうやら、CMの時点でクライマックスを終えていたみたいだ。最高潮を終えた映画などに、心がときめくわけもない。

「お前さ、もう少し中身を選んで借りてこいよな」
「文句を言うなら、高野さんが借りてくればいいじゃないですか」
「んー、面倒だから遠慮しておく」

むっつりと膨れ面で反論してはみるものの、隣にいる高野さんの態度は飄々としたものだ。
蜜柑の皮を剥きながら、お前も食うか?と尋ねてくる。要りませんよ、と答えた。あっそ、と開いた口の中にその実を押し込む姿を見つめる。何が悲しくて新年をあんたと一緒に過ごさなくてはならないのか。

一応新年の家族や親戚の集まりには参加した。正月恒例の餅つきでは、慣れた手つきで杵を振り上げ、お、律くんやるねえ、という賞賛を受取った。そこまではいい。まだ、そこまでは。いい人はいないの?だの付き合っている人はいるの?だの結婚は?だの。最近になって恒例になり始めた、俺に対する親戚一同の詮索タイム。のらりくらりとそれをはぐらかしてはいるけれど、長時間となるとそれも厳しい。その中で特に母親は酷いもので「付き合っている人がいるのなら、さっさと紹介しなさい。さもないとこっちで結婚相手を勝手に決めるからね」と脅迫してくる始末だ。

厳密に言えば、「付き合っている人」はいない。いないのだけど、自分からの告白がまだにも関わらず、身体だけの関係を持っている人ならいる。十年も昔の学生時代に、何年も片想いを続けた初恋の人。最悪なことに、現在は自分が勤めている会社の上司でもあり、何の因果かその住まいは同じマンションの隣同士という状況だ。子供のように好きだ好きだと喚いて。人の唇を奪ったり、服を剥ぎ取って無理矢理身体を重ねたりとやりたい放題。うまく抵抗も出来ずにただ流されている日々。それがまだ可愛い女の子だったら、望みもあるだろうが、悲しきかな、相手は自分と同性の男だ。何をどうやって紹介しろと。

母親の追及についに耐え切れなくなって、まだ仕事が残っているからと言い訳し。そそさとマンションに戻れば、タイミングを見計らったようにか高野さんがずかずかと人の部屋に勝手に上がりこんできた。親と親戚との一件で疲れていた俺は、もはや拒絶する気力も無い。まあ、最近は高野さんと一緒にこの部屋で過ごす時間も圧倒的に増えているわけでもあるけれど。なんでこんなことになっているか、自分でも理由が知りたい。

「初詣でも行くか?」
「疲れているので結構です」
「つまんねー奴」
「だったらご自宅へお帰りくださいよ」

文句を言うなり、自分の髪をくしゃりと撫でられた。どきりと心臓が僅かに鳴った。なにどきどきしてるんだ、と自分で自分を突っ込む。たかだか指先が頭皮に触れただけだというのに、この人相手だと変に意識してしまうのだから仕方ない。

「なあ、小野寺」
「なんですか?」
「これからも、一生よろしく」

新年の挨拶がまだだったからな、という言葉の残骸を耳にしつつ、やっと収まりつつあった鼓動は、またもや高速で運動を再開してしまった。内面からだんだん、と外側に向かって叩かれる心臓。「一生」ってなんだよ「一生」って。ぐるぐると頭の中を回るのはそんな彼の台詞と自らの問いかけ。考えすぎて混乱している俺を眺めて、高野さんは何故だか満足そうに笑っていて。

「今年も、どうぞよろしくお願いします」

なんとか冷静さを取り戻しつつ、返せば高野さんは一転して不満そうな表情を浮かべた。

彼が何を言いたいかは薄々は分かっている。でも決して望む答えを口にしてやらないのは、まだその時ではないと思ったから。問題はまだまだ山積みだ。親戚一同、両親、特に母親に、この二人の関係をどうやって説明するかとか、どうやって宥めるかとか。まずそれ以前に、俺はいつになったら高野さんに好きだと言えるのかとか。先ほど一方的に指きりされた、映画に行くという約束すらまだだし、俺の誕生会もちょっと先の話だから。だから、一生を約束するようなクライマックスは、まだ早いと言っているのだ。心のときめきは未だここに。急ぎすぎたクライマックスなど面白くもなければ、得るものなんて何も無い。これが二人の最高潮だというのは、あまりにもつまらない。それだけの理由。

もう一つ、蜜柑を口に放り込みながら高野さんが言った。


「やっぱり、お前って最悪だな」


それでも、俺が高野さんを選ぶ最後は決まっている。


「うるさいな。今年一年は一緒にいてやるって言ってるんですよ」


一生は、まだ約束出来ないけどね。







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