【吉田松陽の独白】
1、吉田松陽の独白
「子どもがいたら、いいなと思った」
「かわいい子。わたしと貴方の間に生まれた、賢くて、強くて、愛おしい子。貴方はわたしの髪をいつも褒めるけれど、わたしは貴方こそがうつくしいと思っていた。貴方はご自分の瞳を気味の悪いいろだと言うけれど、わたしは貴方のその柘榴石のような暗い赤の瞳が好きだった。だから、貴方によく似た子が生まれればいいと思った」
「ふわふわとした手触りの、銀色の髪。あちこち跳ねてて、利かん坊みたいな。丸くて可愛らしい赤い瞳。ふっくらとした頬の丸み。色は白くて、でも柔らかな色を帯びていて。ああ、私と貴方の子はなんて愛らしいのでしょう!」
「わたしはその愛おしい子がいたら、なんだって与えようと思った。毎日本を読んで子守唄をうたってあげようと思った」
「世界中のうつくしいものを見せて教えてあげようと思った。星の名前を、花の名前を」
「どれだけ愛されて生まれてきたのかいつも教えてあげようと思った。きっとその愛おしい子はわたしたちに、貴方に、たくさんの愛をくれるだろうと思った」
「わたしも貴方も愛に種類があることは知っている。その子の持つ愛は、澱みのない、まっすぐな、とても純粋な愛だった。わたしや貴方がいままでの人生で手にすることのできなかったもの。だから、」
「…子どもがいれば、いいと思った」
「あの日、戦場であの子を見つけたとき、私がどれほど嬉しかったか、貴方におわかりでしょうか?あの冷たい戦場、血生臭く、陰鬱なあの場所で、私はあの子を見つけた…、私の宝物。私と貴方の宝物…」
「ひかりを受けてふっくらと輝く柔らかな銀の髪。夕日のような赤い瞳。なんて可愛らしい丸い頬、小さな鼻とくちびる」
「あの子は間違いなく私の為にあそこにいたのだと思った」

2、とある女の告白
「恋をした。それはとても愚かな行為だった。私には許されないことだった。産まれたときから、人の命を奪うことを生業にすべきと育てられた女に、恋をすることなど許されるはずがなかった」
「私が恋をした相手は美しい亜麻色の髪をしていた。柔らかな日差しのような色。夜の闇色のような私とは正反対の、太陽の色だと思った。私はあの人の身体のすべての、柔らかな色が好きだった」
「あの人がいつももう一人のことを見ているのを、私は横でいつも眺めていた。あの人の横顔は、恋をしている表情は、美しかった」
「子どもを、産もうと思ったのは」
「今にして思えば気が狂っていたのだ。私は銀色の髪で紅い瞳の子供を産むつもりだった。彼と彼の、恋人の子供を産むつもりだった。彼の代わりに」
「…気が狂っていたのだ」
「たぶん、今も」

3、とある青年の独白
「…産まれてきた子は黒い髪に琥珀の目を持っていた。色は白かったけれど、雪のような鋭利な白さの、かわいそうな赤ん坊」
「彼は失望した。その赤ん坊は彼と彼の愛しい人の結晶たり得なかった」
「黒髪の赤ん坊を産んだ女は、彼の失望の前にその赤ん坊をつれてどこかへ消えた」
「その女の流れ着いたのと同じ場所に、しばらくして彼も流浪の民のようにたどり着いたのは、結局のところ、同じ場所から同じような罪状で追われたもの同士であったからだろうか、ただの偶然だったのか、なんらかの意図があったのか、いまは知る由も無いことだ」
「彼が戦場でお前を見つけたとき、どれほど狂喜したのか、今ならよくわかる。銀色の髪、赤い瞳」
「お前はまさしく彼と彼の愛しい人の間にこそ授けられるべき存在だった」
「……でも、こんなことは、お前は知るべきではない」
「お前には、何も知らせない」
「知らなくていいんだ。お前の代わりになれなかったから捨てられた赤ん坊がいたことなんて」
「銀時」
「出生なんて大した問題はない。血のつながりなんかなくても家族になれる。血のつながりがあっても、家族になれないように」
「俺は」
「あの人みたいにはならない。どうしても似ているけど、でも、あの人みたいにはならない」
「銀時」
「お前に出会えて、良かった」

4、とある罪深き男の沈黙
「俺には何も語る資格はない。お前のことについても。お前の、あの銀色の愛子のことについても。そして、あの黒髪の可哀想な子供のことについても。俺はただお前の去った世界で、呪いにもがきながら生きている。…否、死んでないというだけで、生きているといっていいのかは甚だ疑問だ。あの日お前にかけられた呪いは、今でも俺を苛んでいる。お前が俺の前からいなくなると知っていれば…ああ…そんなことは予想できていたことだったのかもしれないが…、とにかく、俺は、もしもそれを知っていたら、お前の愛しているなどという言葉を受け入れたりはしなかった。…ああ…、喋り過ぎたな。烏が呼んでいる。もう行かなくては」








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