ダズは上司に言われたことを思い出す。

エイプリルフールなんて日は生きている人間が勝手に名付けたもので別に今日なにかが起こるわけではない。人間が繰り返される平凡な日常にスパイスを加えようと考え付いたもの。…くだらない。生きる人間が楽しむ行事なのだから私たちには無関係だ。
それを聞いてダズの心は一気に沈んだのもついさっきの出来事。
沈んだ心では仕事なんかろくに手がつかない。先程から何度も書類の記入ミスを首無しの看護婦に指摘されていた。

珍しいね、ダズがミスなんて。と何故か嬉しそうな首無しにダズは何も言えず、ただ苦笑する。

すると突然なにかのメロディーが静かな病室を響かせた。
そのメロディーは首無しの携帯電話から発せられており、持ち主はすぐに手にしてボタンを押す。
その行為と同時に病室を賑やかしていたメロディーはぴたりと止み、代わりに首無しの声が響くようになる。どうやら着信なようだ。


「あなたねぇ、サボりもその辺に「ねぇねぇ、ダス!」」


30分程度誰かと会話する首無しに痺れを切らしたのかダズは声をかけると首無しがすぐに携帯を近くのソファーに投げつけて机を何度か叩く。首無しの言動に相手はいいのか。あなたはいくつだ、子供か。と言ってやりたかったがあえて飲み込んでただ一言、なによと問いかけた。


「あのね、看ちゃんが喋れるようになったって!」

「……は?」

呆けたダズを他所に首無しはソファーに投げつけた携帯を再度手にしてダズの目の前に突き出す。

「ほら。今看ちゃんに繋がってるから!看ちゃん喋ってるよ!」

「…ほんとう、に?」


ダズとしてはそれは嬉しいことである。
上司である伏口程ではないがそれなりに付き合いが長い友人の声を想像することは何度もある。だが随分昔にそれは叶わないと受け入れ諦めていたのですぐに目の前の携帯に手を伸ばせないのだ。

「ほら、充電切れるから。」

そう言って画面を見て焦る首無しにダズは決意し携帯を受けとる。
恐る恐るそれに耳を当てて「もしもし」と言って自身を落ち着けようと瞳を閉じる。

瞳を閉じたせいで気付かなかった、首無しが肩を震わせているのを。


「くくっ、…あはははっ、もうだめ!ダズ嘘だよー!」


首無しの声にはっと目を開けたダズはすぐに顔を真っ赤にする。
さっきは気付けなかったが携帯は通話中でもなんでもなかったのだ。

「あ、あんたっ…騙したわね…!」

「あははっ、うん!エイプリルフール!」

看護婦が喋れるようになったと本気で信じた分、大分ショックを受けたがよくよく考えるとそれでよかったと思った。
彼女は喋れないからこその彼女なんだ、そう思うと自然と頬は緩む。
そんな彼に首無しは怒ってないのかと聞いては頭をぶたれる。

「いたいなぁ。」

「痛くなんかないわよ、まったくあんたは。…ってか、あんたさっき30分も喋ってたけどあれって」

「あぁ、誰とも電話してないんだからひとりごとに決まってんじゃーん。」

ケラケラと笑いながら種明かしする首無しにダズは呆れる。

「そんな手の込んだことよくやったわね、ある意味尊敬するわよ。」

尊敬という言葉に反応してもっと褒め称えたまえと勝手に調子に乗る首無しにダズの手がまた上がった。

「…ねぇ、ダズ好きだよ」

「どうせそれも嘘なんでしょうが。いいから仕事しなさい。」

「あはっ、ばれたー。へいへーい。」

そんな会話を最後に二人は仕事を再開した。ダズはもうミスはしないだろうなと思いながら書類に手を付ける。

首無しは…










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