アルタートゥム区の悪魔

何でも上の立場が決めてしまえば、周り多数の人がそう言ってしまえばそれが正しいとして廻る世界。
誰が正しいなんて実際は存在しないものの、それは下の立場が足掻いた所で、少数派が喚いたところで幻滅する。軽蔑などの目が返ってくる。
…そう、居場所など何処にもない。
そこからどう展開するかは個人の目的、意地、心理状態等に左右されるのであろう。
その'追いやられてしまった組'の中に入る一人の悪魔は、宛もないのにいつの間にか大人になるまで生き延びていた。
名も無いまま世界に放たれ、名を与えられぬまま生きることを否定され、隅に追いやられ、生きる意味も分からずただ彷徨ったその悪魔は殺人鬼になっていた。
その、軽蔑や卑しい目から逃げる為に。
自分を嘲笑う人が、一瞬にして絶望した顔をするのが、その身体から赤い液体を噴き出すのがいつしか楽しくて仕方なくなってしまった。
「アルタートゥム区の悪魔」と人々は悪魔を呼んで畏怖するまでに至った。



その悪魔は"笑夢"と名を貰った。
親から名を貰えなかった悪魔に名を付けたのは一つの因子。
生きる意味を持たなかった悪魔に意味を与えたのもその因子。
「何も怯える必要は無い。何も自分を恨む必要も無い。自分がこうしたいと思うようにして行けばいい。大丈夫。周りが君を好きなようにしたのなら、君もそれに対し報復したって文句なんていう口を持てない」
その言葉は、笑夢という人間の存在を確定させ、同時に幼いながらに狂気を振り撒きより一層悪魔の存在を確定させた言葉にもなる。
そして、周りから吸収していったその言語でぽつりと。「ああ、それで、いいんだ」
彼は改めて固有名詞を口にした。



何時しか彼には友達が出来た。
本物の悪魔。魔神。
ソレははじめこそはその幼い子の魂ごと喰らおうと狙い近づいたが、何時しか仲良くなってしまい、幼子に足りなかった幸福を願っていたのだ。
この子に愛を与えてやって欲しい。自分には与えられないその愛情で彼を変えてやって欲しい。
切実に、そう願った。

笑夢は果たして、幸せになるのだろうか?




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