dazzle



仁王と幸村で大学生同棲パロ



「ただいまー」

玄関で小さく言った。そろりとなかにはいる。おそらく寝ているであろう同居人を起こさないようそうっとドアを開ける。と、そこには幸村が大の字で転がっていた。

「うわ、酒くさ」

こたつの周りには発泡酒やらチューハイやらの缶が乱雑に置いてある。犯人は一人しかいない。同居人は幸村しかいないから、消去法で幸村。

時刻は午前四時であたりはまだ暗い。しんと静まり返っている。リビングがわりに共同でつかっている部屋は冷え切っていてぶるりと身が震えた。風邪でもひかれたら困るし、なにか掛けるものでも持ってきてやろうと部屋を出ようとした、ら。

「っぶな、なにすんのじゃ幸村」
「朝帰りの仁王の足首をつかんだ」

真顔でそんなことをのたまって幸村はもぞもぞと起き上がった。まだ眠そうだ。頭が痛いのかこめかみのあたりを指でぐりぐり押している。またこれだけひとりで飲んだらそうなるわな。

「さあ仁王君。朝帰りの理由でも聞こうか」

暫く唸ったあと、急に元気になった幸村はにやにやしてる。酒のはいった幸村は相当たちが悪い。ごまかせないのは長年の経験で分かっていた。まあそもそもごまかすつもりもないけど。

「駅でね、柳生にあったん」
「・・へえ」

幸村の目がまあるく開かれてじっとこっちをみつめてきた。続きを催促されているようだ。でもなんとなく気まずくてつい言い訳がましくなる。

「いやさ、ほんとにたまたまじゃよ。買い物してたらばったり。でさ、すごいこときいちゃったんですよ。」
「何?」
「柳生、結婚するんだと。」

幸村の目がもっと開かれた。

「えっまじ?」
「うんそうまじまじ」

柳生の話によれば、所謂できちゃった婚らしい。立海の紳士が聞いてあきれるといいたいところだけど責任を取るのはさすがというかなんというか。俺達まだ大学生デスヨ。

「なんか夏?ぐらいに式やるから立海のみなさまも是非来てください。とかなんとか」
「あらま」

幸村は一人でもごもごもと、へえとかふうんとかつぶやいていた。そしてふむふむとひとり納得すると、また俺の方を見つめた。

「で、お前大丈夫なの」

その瞳があんまりにもまっすぐすぎてくらくらした。さっきまでのよっぱらい幸村はどこへいった。こいつはオブラートに包むということを知らないのか。そういえば幸村オブラート嫌いだっけ。
簡単にいうなら、俺は柳生が好きなのだ。恋愛的な意味で。しかも中学から。自分でもやばいなぁと思ってる。幸村は俺のそういう事情を全部知ってる。俺も幸村のいろいろを知ってる。依存ばかりの同居。

「うーん、どうだろ。まだあんま実感がない。まあ正直、柳生があんまり幸せそうに将来のこととか語るんでちょっと毒気を抜かれた。」

柳生は幸せそうだった。俺の気持ちなんてなあんにも知らない彼はご親切に自分とマンションに俺つれていき、年代物のワインなんかを開けながら馬鹿みたいに惚気ていた。子供につけたい名前だとか、テニスを習わせたいだとか、新しい家とか。写真立てで笑う誰かを愛おしそうに見つめて。

「なんか、わかんなくなった。」

自分が彼を好きなのか、そうでないのか。
この感情の裏側には確実に、彼が幸せであってほしいと願う気持ちも含まれているから。

「ふうん」

幸村は気のない返事をかえしてこたつのふちに顎をのせた。まるくなる背中。

「そういうものなのかな」
「そういうもんなんかもね」

沈黙。たぶん彼は彼なりに俺を心配してくれているんだと思う。彼は不安な時いつもより酒を飲む。まわりに転がる缶はきっと、そういうことだ。それにしてもふしぎな状況だなあと思った。酒の空き缶にかこまれて俺はリビング代わりに使ってる部屋の入口でつったってて、幸村はこたつで丸くなっている。うん、とりあえず座ろうか。

「こたつついてんの?」
「んーついてない。」
「えー寒い」

文句言うなこの朝帰り。幸村が暴言を吐きつつも俺のために少し場所を開けてくれた。

「よっこせっと」
「仁王おじいちゃんみたーい」

幸村がけらけらとこどもみたいに笑った。俺もつられて笑った。意味もなくわらった。
こたつの中でふれた幸村の足は冷たかった。




つづく?








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