chapter.3-7


『弾けろ!スキンティッラ!』

 その言霊と共にシェスカの剣から火花が迸る。男が咄嗟に手を離したのを彼女は見逃さなかった。地面を強く蹴り、一気に距離を取る。

『裂け! ウェントシーカ!』

 刃の形になった風が、まっすぐ男へと向かって飛び出した。しかし、男は動かない。
 ドッ、と鈍い音を立てて、風の刃は男の右足のすぐ横へと突き刺さった。

「捕縛? 冗談じゃないわ! それに、私を捕まえても何の解決にもならないわよ!」

 と、シェスカはまた切っ先を男に向け直す。

「それは俺が決めることではないな」

「…次は当てるわよ」

 男はシェスカの手を掴んだ方の手を軽く払う。先程の魔術に、相手を痺れさせるような効果があるのかもしれない。その後、男が手のひらを握ったり、開いたりしていたからだ。

「しかし、よくないな」

「何がよ」

「そう前ばかり見ていると、」

 静かに男の声が響く。彼は手のひらをそっと地面につけた。

「足元を掬われるぞ」

 気だるげだったその瞳は、今は鋭い光を宿していた。

「−−!?」

 何かを感じ取った彼女は、再び距離を取るように地面を蹴り上げた。

『影縛…』

 その彼女の影から、ぶわり、と幾本もの鎖が伸びる。

(嘘っ、詠唱が短すぎる…!)

 シェスカが咄嗟に何かを詠唱しようにも、その鎖はすでに彼女を捉えていた。

『チェイン』

 男が短く言った言葉が魔術であると理解したのは、シェスカが影から生まれた鎖でがんじがらめになった後のことだった。

「こんなもの…っ!」

 彼女はそれを剣で何度も叩いて砕く。魔術でできた鎖は意外と脆く、簡単に壊すことができたが、その間に男は音もなく静かに立ち上がり、そのまま彼女の方へと向かう。

「シェスカ!」

 なんとか助けないと…!そう思い、ヴィルは彼女に駆け寄ろうとした。しかし、肩にある強い力が、それを許さない。

「っ、離せよジェイク! シェスカを助けないと…!」

「まーまー、落ち着けって。自分の状況わかってるか? ゴーグル君」

「……え?」

 いつもと変わらない笑みを浮かべるジェイクィズに、異様な寒気がした。その正体はあっさりと見つかった。首筋にぴったりとくっつく何かがある。それはとても冷たく、気持ちが悪い。それが刃物だと気付くまでにしばらく時間がかかった。


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