chapter.3-3


「これが最後の扉?」

「そーみたいねェ」

 ヴィルの問いにジェイクィズが答える。シェスカは扉に刻まれたエルフ語とずっとにらめっこしている。
 ここに来るまで、たくさん扉があった。大岩から逃げている時にもあった少しだけ開かれた扉や、完全に壊れてしまい、通れるようになった扉。それから、このように閉まっている扉だ。
 ほとんどはあっさり開いたのだが、これはどうやっても開かなかった。
 そしてシェスカが扉に刻まれたエルフ語に気付いて、今に至るというわけだ。

「これって合言葉だよな。パルウァエにもあったっけ」

「ええ、そうよ。あの時は絵も彫られてたからすぐにわかったんだけど、これはちょっと毛色が違うみたい」

 見て、と彼女は刻まれた古い文字を指す。

「あれ…? なんとなくだけど読める…?」

 形は現在自分たちが使っている共通文字とよく似ている。ところどころわからないものもあったが、ほとんどは共通文字と同じだ。

「時代的には最近のものね。他のよりも刻まれてから時間が経ってないように見えるわ」

 シェスカは「共通語はエルフ語に色んな言語が混ざって生まれたものだから、文字も似てるのよ」と付けたして説明してくれた。

「えーっと? 『常に、それは…回っている。朝も昼も夜も、休むことなく動いている』…であってるのかナ?」

 ジェイクィズは最初の部分をぎこちなく読み上げると、シェスカに確認を取るようにそう尋ねた。
 彼女はそれに頷くと、更にその続きを読み始めた。

「『彼らは動いていることには気付かない。何度回っても、目を回さず、そのことに気付かない』ね」

「どういう意味?」

「それがわかってたら、さっさと開けてるわよ」

 シェスカはまた唸りながら、その文字と睨み合いを始める。何かヒントがないか、見落としているものはないか、何度も何度も文章を反芻しながら。

「ダメ。わかんないわ」

 ふぅっと息を吐いて、彼女はようやく扉とのにらめっこを終わらせた。

「常に回っていて、朝も昼も夜も動いてる…でも動いてることには気付いてないし、何度回っても目を回さない、そのことにも気付いてない…か」

「ワケわかんないネ。オレにはサッパリわかんねェや」

 ジェイクィズはお手上げと言わんばかりに両手を挙げた。
 ヴィルは、もう一度刻まれた文字をじっくりと読んでみた。ふと、頭に何かが降ってきた感覚。もしかしたら、という考えがすとん、と落ちてきたようだった。

「なあ、シェスカ。エルフ語で世界ってなんて言うんだ?」

「え? えっと…確か『アルダ』だったかしら」

 ガコン。

 扉から何かが外れるような音がした。そしてゆっくりと、真ん中から両開きに開かれていく。
 シェスカとジェイクィズはそれをぽかんとした顔で見つめていた。

「よっしゃ!ビンゴ!」

「わお、やるじゃんゴーグルくん!」

 ひゅう、と口笛を鳴らして、ジェイクィズはヴィルの肩をばんばん叩く。少し痛い。
 シェスカを見ると、彼女は不思議そうにこちらを見ていた。

「何で『世界』?」

「だってこれ、なぞなぞだろ? 簡単じゃん」

 そう言って笑うと、彼女は少し考えてから、ああ、と手を打った。

「意外ねぇ…情報屋の時は全くわかってなかったのに」

「それとこれとは別!とにかく先に進もうぜ!」

 地味にぐさりとくる発言だ。胸のあたりがちょっとちくちくした。





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