chapter.3-1


 地下通路(二回目)に入って数日。魔物はちょこちょこいたものの、以前追いかけられたあの大蛇のようなものはいなかったので、ヴィルやシェスカだけでもどうにかできるものだった。
 充分に準備してきたお陰で食料もあれば、毛布や、火を起こすものも用意していた。日の光がない、という以外はとても快適な旅である。
 シェスカを追っているという輩も今は追ってきているかすらわからないし、待ち伏せしているというやつがこちらに出向いてくる気配もない。
 実に平和で快適な旅である。

 現在、大きな地鳴りと共に転がってくる大岩に追いかけられている以外は。

「もういい加減にしろよッ!!ほんっとーに!!」

「あはは、ヤダーヴィルくんってば顔こえーよ? すまーいるすまーいる!」

「この状況で笑えるわけねーだろ!! アホか!!」

「なーんか口も悪くなってねェ?」

「あんたたち!そんなこと言ってないでいいから走る!!」

 先程の会話からわかる通り、事の元凶はジェイクィズだ。ここに至るまで何度も何度も面白がって変なスイッチを押したり、怪しい床を踏んでみたりと、いちいちあげてはキリがない。
 ブランとノワールの苦労はこういうことか、と一人納得する。

「おっ、」

 短くジェイクィズが声を上げた。そして少し進んだ先を指差す。その先は灯りで照らされておらず、真っ暗で何も見えない。

「あれ扉じゃねえ? あそこに入っちまえば大丈夫じゃね?」

「? 何も見えないぞ?」

 疑問に思っていると、ようやく薄ぼんやりと彼の言っている扉のようなものが姿を現せた。パルウァエの遺跡から地下通路に入ってきたあの扉と似たようなものだろうか。進んでいくにつれて、ようやく人が通れそうな幅の隙間が開いているのが見えてくる。

「飛び込め!!」

 その声と同時に地面を思い切り蹴っ飛ばす。
 なんとか滑り込むように身体を捻じ込ませると、その直後に鈍い轟音が地下通路中に響き渡った。
 後ろを振り返ると、扉によって勢いを殺された大玉が何度も何度も跳ね返って、それを数回繰り返してようやく止まっていた。
 …あれが自分にぶつかっていたとなるとぞおっとする。

「いやあ、危なかったネ!」

「誰のせいだ、誰の!!」

 抗議の言葉を向けても、ジェイクィズの改善の余地はなさそうだ。ヴィルは深いため息を吐いた。
 咄嗟に飛び込んだこの場所は何かに使う部屋だったのか、それまでの通路とは違い、ある程度の広さがある空間だった。そことなくパルウァエの遺跡−−地下通路に入る前のあの場所だ−−に似ている。
 もっとも、あそこは発光する花のお陰で華やかで明るかったが、ここはもっと寂れて、なにより暗い。

「あら、でも悪いことばかりじゃないみたいね」

 シェスカが地図をランプで照らしながらそう言った。




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