「『剣士風の格好をした、赤毛の女』を探せ…ってな。それから、『奴らはアメリの第五区に現れるらしい』ともな。昨日の夜中仕入れたばっかの超ホットな情報だぜ?」
「でも、どうやって追ってきてたんだよ? サンスディアは封鎖されてた!」
ヴィルがそう言うと、彼は「まだまだ考えが甘いねェ、ゴーグルくんは」と呆れたように笑った。
「シェスカちゃんが知ってる奴以外でも、キミを追っかけ回してんじゃねーの? そいつらが、お前らがくる以前、封鎖される前に入ったとか、オレらと同じく地下通路から入ったとか、いくらでも可能性はあるぜ?」
「それは…!」
そこまで言って言葉に詰まる。確かにジェイクィズの言う通りだ。地下通路に至っては、パルウァエ以外の場所――ブラン達が入ってきたというギルヘンの遺跡からでも入れる。追うこと自体は容易なのだ。
シェスカの方を見やると、彼女は少し俯いて何かを考え込んでいたようだったが、ふと顔を上げると、凛とした瞳をまっすぐジェイクィズへと向けた。
「それで、あなたは何が言いたいの? 第五区に私を追ってるかもしれない奴らがいるのはわかったわ。でも私たちの持ってる地図には他の出口なんて書かれてないの。だからこの道を行くしかない。それとも、あなたが他の道を教えてくれるのかしら?」
「そうじゃなかったら呼び止めたりしねーって。ハイこれ、なーんだ?」
ジェイクィズは満面の笑みでポケットから紙切れを取り出して広げてみせた。
「それ、地図か?」
しかも、昨夜双子から貰ったものに酷似している。よく見ると、更に細かく書き込みがされているようだ。
「そ。第三区に出る道が書いてる。ガキ共と別れる前にくすねてきちゃった」
またしても語尾にハートがつきそうな感じだ。
「これでど? オレ様と一緒に行きたくなったっしょ? オレは寂しくないし、シェスカちゃんたちは待ち伏せ回避できるし、道中の護衛くらいはするぜ? 一粒で三度おいしい!わお、おっ得ー!」
しばらくの沈黙の後、シェスカは大きな溜め息を吐くと、静かに剣を鞘に納めた。
「わかったわ。まだ納得いかないとこ多いけど、一緒に行きましょう」
「やりィ!そうこなくっちゃ!そうと決まりゃ、さっさと行こうぜ!」
そう言うと軽い足取りでジェイクィズはさくさく先に進んでいく。それを追いかけながら、ヴィルはシェスカにこっそりと話しかけた。
「オレ、信じられないな」
「何が?」
「ブランとノア。あんなことするなんて、信じられない。ジェイクが嘘ついてるとも思いたくないけど、信じたくないよ。そりゃ、怪しいとこもあったけど、あいつらいい奴、だし…」
話している間にどんどん自信がなくなっていって尻すぼみになっていく。そんなヴィルを見て、シェスカはふっと表情を和らげた。
「そうやって他人を信じられるのは、あなたのいいところね。大事なことだと思う。私にはできないことだもの」
彼女は襟のあたりを指で弄くりながら続ける。
「私は、疑わざるを得ないから、あなたのそれが羨ましいわ」
思えば、彼女は初対面の相手には特に警戒心が強かったように思う。街の人にはそうでもなかったが、変な場所で会った人物――双子やジェイクィズ、ヴィルの師のヘカテに対してさえもそうだったような気がする。
「あ、あなたは信用してるわよ? いろいろ助けてもらったし、悪い人じゃないってわかってるから」
「それは嬉しいけど、いろいろって…オレ何かしたっけ?」
なんとなく記憶を遡ってみても、とくに何かをした覚えはない。
「気付いてないならいいわ。ほら、早く行きましょ」
そう言って微笑むと、シェスカはジェイクィズの後を追う。ヴィルも慌てて二人の背中を追いかけて、通路の奥へと吸い込まれていった。
chapter.2-33
world/character/intermission