chapter.2-32



「待ち伏せ…って、どういうこと?」

 反射的にジェイクィズから距離を取りながら、シェスカはそう尋ねた。

「言葉通り。キミを追ってる奴らが、アメリで待ち伏せしてるって話」

 ジェイクィズはへらへらとした笑みを浮かべている。胡散臭い。シェスカもそう思ったようで、腰に提げている剣の柄に手を伸ばしていた。

「どうして、アメリで待ち伏せしてるなんて知ってるのかしら? 返答次第では容赦しないわよ」

「やァだシェスカちゃん物騒〜! オレまで疑ってる?」

「茶化さないで!!」

 彼女は声を荒げると、そのまま一気に剣を引き抜いた。じゃらりと小さな鎖が音を立てて、赤い鉱石が揺れる。

「こわいこわい」

「なぁ、ジェイク。どこでその待ち伏せしてるって話を聞いたんだ?」

 肩を竦めるジェイクィズに、そう問いかけてみた。

「信頼できる情報筋からな。確か…第五区の出口のあたりを張ろうとしてるらしい」

「…第五区…」

 ちょうど出ようとしていた場所だ。何故、彼らはそれを知ってるのだろうか。思い当たる節は一つしかない。

「…あいつらね。あの言い分はそういうこと…」

 情報屋のブランとノワール。彼らがヴィル達の情報をリークしたのではないか。
 シェスカは苦虫を噛みつぶしたような表情で、昨夜の彼らの言っていたことを思い出していた。確かこうだ。

『あなたたちに話すメリットがないわ』

『俺らになくても別の人間にはあるかもよ?』

『それって誰かしらね』

『さあねぇ、僕には言えないや』

 別の人間、つまり追いかけてきていた二人組のことなのだろうか。はっきりとしたことはわからないが、その可能性は高いのだろう。
 しかし、ヴィルにはあの双子がそんなことをするようには思えなかった。信用第一が情報屋なのに、自らその信用を失う真似をするだろうか。

「あなたは何故、そんなことを知ってるのかしら?」

 ジェイクィズに向けた剣を逸らさずに、シェスカはそう尋ねる。

「だーかーらー、信頼できる情報筋っつったろ? もっと正確に言えば、ジブリールからの情報だ」

「ジブリール? なんでジブリールが?」

 ヴィルが驚きの声をあげると、彼は得意げな笑みを浮かべながらウインクをひとつ。

「なんでも、サンスディアで明らかに見慣れない奴らがうろついていたらしいぜ? なんせ封鎖中だったしな。そういう奴はあっさり見つかる。そんで、ある隊員がそいつらの会話をちらっと聞いたのさ」

 そこで言葉を区切ると、ジェイクィズはゆっくりとした仕草でシェスカを指差した。



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