chapter.2-31


 長い梯子を下りきると、相変わらず真っ暗な通路が待っているかと思っていた。しかし何故か、ここにいないはずの人物がいたのだ。

「よぉ、お二人さん!お元気?」

「なっ!? なんであんたがここにいるのよ!?」

 緩いカールのかかった金髪、垂れた瞳。以前羽織っていた上着は今は腰に巻かれており、左肩には十字架を模した刺青が彫られている。
 ジェイクィズ・バートガルが片手を挙げてウインクなどを寄越していた。

「いやね、オレもちょーどアメリに行くところだったんだよなァ。一人じゃ寂しいから混ぜて?」

 語尾にハートマークがつきそうな感じでジェイクィズはそう言った。

「じゃあブランとノアは? あいつらも一緒じゃないのか?」

 彼の周りを見渡しても、あの双子の姿は見当たらない。

「あいつらのお守りはオシマイ!これで自由の身!」

 心底嬉しそうに言うジェイクィズだったが、急に肩をがっくりと落として深いため息を吐いた。

「でもさァ、今度はもっと人遣い荒い奴に捕まっちまってよ。急にアメリまで来いって…オレ様のことなんだと思ってんのかねェホント!!」

「そっか…大変なんだな、ジェイクも」

 彼もなかなかに苦労しているようだ。ちょっと同情してしまう。

「そうなの!! だから慰めてシェスカちゃん!!」

「…っ! どさくさに紛れてどこ触ってんのよ燃やすわよ!!」

 …前言撤回。ジェイクィズは相変わらずだった。

「さ、行くわよヴィル」

「そうだな。早く行こうぜ」

 例によってジェイクィズをのしたシェスカは、見るだけで怖いとても冷ややかな視線を彼に向けもせず、すたすたと歩き出す。ヴィルもまたその後ろに続いた。

「ちょっとォ!! なんかゴーグルくんも冷たくなってない!? オレ様深く傷ついたよ!?」

「またしばらくは地下かぁ…」

「そうねぇ、もう日の光が恋しいわ…」

「無視!? 無視しちゃうの!? せっかくいい事教えてあげよーとしたのに!!」

「いい事?」

 ヴィルがそう聞き返すと、ジェイクィズはとてもいい笑顔で「そう!いい事!」と返した。

「どうせロクな事じゃないわよ。聞くだけ無駄」

「聞きもしねェで判断すんのはどうかと思うぜ、シェスカちゃん」

 なおも足を止めようとしない彼女に痺れを切らしたのか、ジェイクィズはヴィル達を追い抜くと、そのままシェスカの耳元に唇を寄せた。

「な、なによ…?」

 怪訝そうにする彼女に構わず、ヴィルにも聞こえるように彼はこう耳打ちした。


「シェスカちゃんたちを追ってる奴ら、待ち伏せしてるぜ?」






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