長い梯子を下りきると、相変わらず真っ暗な通路が待っているかと思っていた。しかし何故か、ここにいないはずの人物がいたのだ。
「よぉ、お二人さん!お元気?」
「なっ!? なんであんたがここにいるのよ!?」
緩いカールのかかった金髪、垂れた瞳。以前羽織っていた上着は今は腰に巻かれており、左肩には十字架を模した刺青が彫られている。
ジェイクィズ・バートガルが片手を挙げてウインクなどを寄越していた。
「いやね、オレもちょーどアメリに行くところだったんだよなァ。一人じゃ寂しいから混ぜて?」
語尾にハートマークがつきそうな感じでジェイクィズはそう言った。
「じゃあブランとノアは? あいつらも一緒じゃないのか?」
彼の周りを見渡しても、あの双子の姿は見当たらない。
「あいつらのお守りはオシマイ!これで自由の身!」
心底嬉しそうに言うジェイクィズだったが、急に肩をがっくりと落として深いため息を吐いた。
「でもさァ、今度はもっと人遣い荒い奴に捕まっちまってよ。急にアメリまで来いって…オレ様のことなんだと思ってんのかねェホント!!」
「そっか…大変なんだな、ジェイクも」
彼もなかなかに苦労しているようだ。ちょっと同情してしまう。
「そうなの!! だから慰めてシェスカちゃん!!」
「…っ! どさくさに紛れてどこ触ってんのよ燃やすわよ!!」
…前言撤回。ジェイクィズは相変わらずだった。
「さ、行くわよヴィル」
「そうだな。早く行こうぜ」
例によってジェイクィズをのしたシェスカは、見るだけで怖いとても冷ややかな視線を彼に向けもせず、すたすたと歩き出す。ヴィルもまたその後ろに続いた。
「ちょっとォ!! なんかゴーグルくんも冷たくなってない!? オレ様深く傷ついたよ!?」
「またしばらくは地下かぁ…」
「そうねぇ、もう日の光が恋しいわ…」
「無視!? 無視しちゃうの!? せっかくいい事教えてあげよーとしたのに!!」
「いい事?」
ヴィルがそう聞き返すと、ジェイクィズはとてもいい笑顔で「そう!いい事!」と返した。
「どうせロクな事じゃないわよ。聞くだけ無駄」
「聞きもしねェで判断すんのはどうかと思うぜ、シェスカちゃん」
なおも足を止めようとしない彼女に痺れを切らしたのか、ジェイクィズはヴィル達を追い抜くと、そのままシェスカの耳元に唇を寄せた。
「な、なによ…?」
怪訝そうにする彼女に構わず、ヴィルにも聞こえるように彼はこう耳打ちした。
「シェスカちゃんたちを追ってる奴ら、待ち伏せしてるぜ?」
chapter.2-31
world/character/intermission