「ふぁ、ふあぁぁ……」
ヴィルは喉の奥が覗けるのではないかと思うほど大きなあくびをひとつ。まだ日も昇っていないためか、外は真っ暗だ。
「歩きながら寝ないでよね」
そんな彼を横目に、完全に覚醒しきった状態のシェスカが、呆れたように口を開いた。
仕方ないだろ、昨日は遅くまでロージアンにいたんだから、という言い訳をするのも面倒なほどに眠い。
「なんでこんな朝早くに…?」
重い瞼を擦りながらそう尋ねると、彼女は地図を指差して言った。
「この場所、街の中央部なのよ。人通りが多いと面倒なことになるわ。昨日の夜でさえ結構人がいたもの」
どうやらロージアンから出た彼女は、一度地下通路の場所を確認しに行っていたようだ。
「…あった。ここよ」
シェスカが持っている地図を覗き込む。書いてある通りの場所だが、入り口のようなものは見当たらない。
彼女は近くの植込みにしゃがみ込むと、何やら木の根のようなものをゆっくりと引いた。すると、鈍い音を立てて地面にぽっかりと穴が開いていく。
「これ、引き戸になってるの。よく出来てるわよね」
本当に上手く隠しているものだ。扉の色は土と同化していて、ぱっと見ではまったくわからない。扉の向こうには深い暗闇があり、どうやらうっすらと見える梯子状の階段から降りるようにできているようだ。
扉が完全に開ききったことを確認すると、ヴィルとシェスカは人一人がようやく通れるほどのその入り口へと足を踏み入れた。
chapter.2-30
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