chapter.2-29




 取り残された双子はそんな彼らの様子をぼんやりと眺めながら、隣のボックス席へと腰掛けた。
 彼らの向かいには既に先客がいた。若い、二十歳前後の背の高い青年だ。酒場だというのに一人でコーヒーを啜っている。
彼はぼさぼさした長さの不揃いな黒髪を、無理矢理一つに束ねており、くたびれたシャツはあちこち薄汚れていた。きちんと髪を梳かして、子綺麗な服を着た双子とは対照的だ。

「で、目的の情報は得られたかな?」

 ノワールは青年にそう微笑みかけた。彼は気だるげな瞳をすぅ、と細めると、短く「大体はな」と答えた。

「まだ足りない部分はあるが、充分だろう。あんたらの協力に感謝する」

「それが仕事だからな。ところでさぁ、あいつもう少し借りてちゃダメ?」

「そうしたいのは山々なんだが、局長が連れてこいとうるさくてな」

「元ジブリールは大変だねぇ」

 ノワールの苦笑を聞きながら、青年は心底深いため息を吐いた。
 すると、ステージの方から急に酒場には不釣合いな童謡が流れ始めた。そちらを見ると、楽しそうなユゥリアに促されて歌うヴィルがいた。
 緊張しているのか、時々うわずった声が混じっている。

「俺もそろそろ出るか」

 そう言うと、青年は代金をテーブルに置いて立ち上がった。

「あ、ちょい待ち」

 ブランは何かを思い出したかのように彼を呼び留める。

「あの二人、パルウァエから来たらしい」

「パルウァエ…?」

 ぴくり、と青年の眉が動いた。

「あんた最近行っただろ? そのパルウァエ」

 青年はしばらく考えるように黙り込むと、小さく成る程なと呟いた。

「何が成る程なのさ?」

「答えられないな」

「けち!」

「何とでも言え」

 それだけ言うと、青年は静かにロージアンから出て行った。

「あの人もつれないなぁ」

「まあいいだろ。何か面白そうな事が起こりそうな予感がする」

「へぇ、ブランも?」

 双子は顔を見合わせて、にやりと笑う。
 ユゥリアとヴィル、それから時折混ざる他の客たちの楽しげな歌声を聴きながら、彼らは再びトランプを広げ始めた。







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