ノワールが言うには、あの地下通路はアメリを中心に世界中に張り巡らされているらしい。アメリとサンスディア、それから西大陸フェルム側の橋にあるルクスディアは、元はエルフの遺跡でずっと昔からあったそうだ。そこに人間達がどんどん手を加えて現在の形になり、あの地下通路も忘れられた存在となったとのこと。
「すっげー便利じゃん、地下通路!」
通っている間は特に何も気にしてなかったが、そういう話を聞くとちょっとだけわくわくしてきた。
「といっても、あそこは知られてない上に、魔術でトラップしかけられてたり、魔物が独特の進化をしてたりで、結構危ないんだよね」
「俺達も全ての道を把握してるわけじゃないから、下手に寄り道しようとは思うなよー」
笑顔で双子に釘を刺された。トラップって例えばどんなのだろうか。やっぱり大玉が降ってくるとかかな…
「それもあるけど、どっからともなく矢が飛んできたり」
「透明な壁にぶち当たったと思ったら、全く別の場所にいたり、とかかねぇ」
そう語る双子はどこか遠い瞳だ。なるほど、迷っている間にそんな目にあってたのか…そりゃジェイクを恨むよな…と、心の中で合掌。
「まぁ、このルートを通ればすぐにアメリに着くよ。出口は三つあってね、」
そう言ってノワールは枝分かれした赤い線の先端をペンで丸く囲った。
「一つ目はアメリの第七区の森の中、二つ目は第五区の路地裏、で、三つ目は第三区のここも路地裏に繋がってる。怪しまれずに入るなら第五区がおすすめかな」
「話の腰を折るようで悪いんだけど…」
シェスカは申し訳なさそうに左手を挙げた。
「その第なんとか区ってなに?」
ああ、そっか。シェスカって記憶喪失だったっけ。記憶がなくても彼女はしっかりしているので、つい忘れがちになってしまう。
ブランとノワールは意外そうに瞳を丸くした。
「「知らないの!?」」
「ええ、まあ」
「あ、実はオレも」
ヴィルは少し瞳を逸らしながらゴーグルの位置を直す。前に訪れた時に師匠から軽く聞かされた気がするが、もう随分前のことでほとんど覚えていない。
双子は、しょうがないなぁといった風にやれやれと首を振った。
「アメリは階層状に分かれてる国でね、全部で七つの階層があるんだよ」
ノワールはさらさらとメモ帳に適当な三角形を描き、さらに横に線を引いて七つに区切った。
「下から、農業とか漁業を中心にやってる第七区、お店とかが多くて流通が盛んな第六区、五区と四区は民家が多い居住区。宿とか酒場とかはこっちのほうが多いかな。で、国のお役所とかジブリール本部とか、国立研究所とかあるのが第三区。で、第二区にアメリ王城、それから第一区にマイノス・ガラドがあるってわけ」
マイノス・ガラドというのは、アメリの中心から空へと伸びるとても高い塔のことだ。パルウァエからもその塔はうっすらと見えており、その頂上を見たものはいないとか。
アメリはその昔、エルフの都で、その中心で政が行われていた場所がマイノス・ガラドといわれている。
現在は使われておらず、貴重な遺跡のひとつとして学者たちが調査を進めているそうだ。
さすがに彼女もマイノス・ガラドは知っているようで、「ああ、あの塔ってそこから建ってたのね」と納得がいったように頷いていた。
「国っていうより、一つの街みたいね」
「そうやってなめてると迷子になるぞー? ああ見えて案外広いからな」
「確かに、国自体の大きさは結構あるよな」
ヴィルがふむふむとブランに頷くと、ノワールは自慢げに、
「それから縦にも伸びてるからね!面積はウルンよりも大きいんじゃないかな!」
と、地図の空白部分に謎の落書きを描きながら笑う。…描いていたのはとぐろを巻いた蛇のようだ。妙に瞳がつぶらでかわいらしい。
「はい、これ。この道に従ってけば一週間もかからずに着くよ」
その落書きに「気をつけてね(はぁと)」と吹き出しを描き込んでから、ノワールは満面の笑顔でそれをシェスカに手渡した。彼女はそれをしっかりとポケットにしまうと、少し急いで立ち上がった。
chapter.2-27
world/character/intermission