chapter.2-22


「あの、大丈夫ですか?」

 いち早く我に帰ったヴィルは、とりあえずその女性に手を差し出した。女性はそれをしばらくぼーっと見つめていたが、にっこりと笑って手を取った。

「ありがとう〜。だいじょうぶよ〜」

 随分と気が抜けそうになる喋り方だ。歳はシェスカよりも少し上だろうか。眦の下がった細い瞳に、耳の下あたりで揃えられているウェーブの掛かったダークブラウンの髪が、頷く度にふわふわと揺れている。

「今度は転ばないように気をつけて下さいね」

 いつの間にか落ちていた彼女の荷物を回収していたシェスカが、はい、と紙袋を手渡す。

「ええ〜。ありがとう〜。…あら?」

 ふと何かに気付いたようで、彼女はぱちぱちと細い瞳を瞬かせた。

「あなたたち、昨日ウチで牙を売ってくれた人たち?」

「ウチ?」

 シェスカが聞き返す。

「そう〜。あの道具屋さん〜。私の家なのよ〜」

 そういえば店主のとなりでやたらにこにこしていた人がいたことを思い出す。この人だったのか。

「あ、じゃあ、この街の人なのよね。これ、どこかわかりますか?」

 シェスカはそう言って、ノワールから貰った地図らしき紙切れを見せた。

「見せてわかるのか? この街じゃないのかも…」

「地元の人ならわかるかもでしょ。当たって砕けろよ」

 などと二人でこそこそと話していると、女性は「ああ、ここね〜」と気の抜けた声を上げた。

「わかるの!?」

「ええ〜。私もよく行くもの〜。ここから広場を左に抜けて、それから三つ目の角を右に曲がって、ずーっとまっすぐ行けばここに書いてる場所につくわ〜」

 さすが地元民。わからないことがあったら聞くに限るなと改めて実感する。というかよく行くというだけなのに、あの線と点しかない地図でよくわかったものだ。

「で、どこへの地図なんですか、これ?」

 と、シェスカが訝しげにそう尋ねた。女性は相変わらずふわふわと笑いながら、

「ロージアンっていう酒場よ〜。おいしいお酒が置いてるの〜」

 一体何故、ノワールは酒場への地図なんて渡したのだろう。ヴィルとシェスカはお互いに顔を見合わせた。









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