chapter.2-20


 噴水広場にはお昼時のせいなのか、食事を楽しむ人たちが多かった。和気あいあいと和やかな雰囲気が漂う中、ひとりだけ様子の違う少女が噴水の端に腰掛けていた。――シェスカだ。酷く顔色が悪いように見える。
 ヴィルは急いで彼女の元に駆け寄った。

「おい、シェスカ!? 顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

 胸の辺りを押さえて辛そうにしている。えーっと、こういう時ってどうすればいいんだっけ。水でも貰ってきた方がいいのだろうか。そうこう慌てている間に、シェスカは軽く頭をふるふると横に振ると、何事もなかったかのように立ち上がった。

「…平気よ。もう収まったから」

「大丈夫なのか?」

「軽い立ちくらみみたいなものよ。大丈夫」

 立ちくらみで胸を押さえるってどういうことだよと軽く突っ込みを入れたいところだが、シェスカは有無を言わせないような瞳で睨んでくる。

「で、何か収穫はあった?」

 そう尋ねてきた彼女に、ヴィルは先程スイル側の門で起こった事の一部始終を話した。時折相槌を打ちながらそれを聞いている彼女は、体調がマシになったようで、すっかり顔色も良くなっている。

「なるほどね。スイル側の封鎖は納得したわ。きっと“奴ら”ね」

「“奴ら”ってあのシェスカを追いかけてた?」

「ええ。あの大きいカエル覚えてるわよね」

 初めてシェスカと会った時に遭遇したあの魔物。彼女が魔術で身体を吹き飛ばしても、歪に再生していくその姿。あのじっとりした不快感は忘れたくても忘れられない。

「恐らく、凶暴化した魔物って、あのカエルと同じ『再生する魔物』じゃないかしら」

「どうしてそう思うんだ?」

「あの再生する魔物って、どういうわけか“奴ら”が近くにいる時しか出てこないのよ。あいつらが使役してる魔物がそうなのか、あいつらが何かしら干渉した結果がそうなのかは知らないけどね」

「と、いうことは、つまり…」

 シェスカは深刻な面持ちでこちらを見据える。

「アメリ側も封鎖されてる今、早くここを離れないとマズいってこと」





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