chapter.2-19


 残された眼帯の男は、門の警備をしていたジブリールの隊員に何かを小声で話していた。旅の商人一行にも何か話したようで、主人は真っ青な顔で首を思いっきり縦に振っていた。

「あれ、ガジェッド隊の隊長だろ? ブッソーねェ」

 ふと隣から聞き覚えのある声が降ってきた。首をひねると、その声の主はあいかわらず紫煙を燻らせながら、眼帯の男のほうを眺めている。

「ジェイク!」

「おーす。ゴーグルくん、シェスカちゃんは?」

「ガジェッド隊って?」

「無視かよ」

 ジェイクィズは眉間に深い皺をよせて、軽く舌打ちした。

「ジブリールは四つの隊でできてんのは知ってるな? それぞれの隊長の名前から、何とか隊って呼ばれてんの。んで、あの赤いのは第三分隊のガジェッド隊ってわけ」

「へぇ、じゃあなんで隊長ってわかったんだ? 第三分隊ってあんまり見かけないのに」

「腕章してんだろ。アレ、隊長の印な」

 そう言って、ジェイクィズはとんとん、と自らの左腕を指した。

「詳しいんだな」

「ナニ言ってんのヴィル。これ都会じゃジョーシキよ?」

「悪かったな、田舎者で!」

 確かにパルウァエはなんにもない町だけども!と心の中でそう叫ぶ。そもそも隊長なんてコロコロ代わるものを名称にするのはよくないんじゃないか、とも思ったが、口には出さないでおこう。何を言ってもジェイクィズにからかわれるだけにような気がする。

「そういえばジェイク、ブランとノアは一緒じゃないのか?」

 なんとなく静かだと感じていたのは、どうやらその二人がいないせいらしい。周囲を見渡しても、散り散りになっていく野次馬しかおらず、二人の姿は見当たらなかった。

「依頼人がまだ来てないから探してこいって言われたんだよ。ったくあのガキ共は人使い荒いっつの」

 はああ、とジェイクィズが大仰に溜め息を吐くと、一気にタバコの煙がこちらまでやってきて、思わず咽せそうになる。

「まァいっか。見つかったし」

「――え?」

 一瞬。煙に隠れてほんの一瞬だけ、ジェイクィズの表情から、いつものおちゃらけた感じが消え失せていた。何の感情もない、そんな感じの…

「あ、かわいー女の子はっけーん!! じゃあな、田舎者のゴーグルくん」

「田舎者は余計だ!」

 そう感じたのも束の間、ジェイクィズは満面の笑みを浮かべて、ひらひらと手を振りながら街の中へと消えていった。

「…? なんだったんだ、さっきの?」

 うーん、と唸りつつ考えてみてもさっぱりだ。ジェイクィズはたまに何を考えているのかわからないから、少し苦手だ。

 ごーん、ごーん。

 街の中央から、昼を知らせる鐘の音が響いてきた。そろそろシェスカも噴水広場に向かっている頃だろうか。まだ周りの人に話を聞いていないが、これ以上特に情報はなさそうだ。とりあえず合流しよう。
 ヴィルは先程の出来事を忘れないように何度も頭の中で反芻しながら、少し早足で広場へと向かった。





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