chapter.2-13


 長く続いた階段を上り、蓋のようになっている扉を開けると、眩い光が一気に差し込んできた。咄嗟にヴィルは頭に乗せていたゴーグルを下ろした。
 その眩しさにゴーグル越しでもしばらく目が開けられなかったが、次第に慣れてきてようやく周囲の様子が見えてくる。
 青々とした木々や芝生が生い茂っており、その向こうにうっすらと街のようなものが見えた。

「ここは…?」

「サンスディアの街外れだよ。大通りまではもう少し歩くかな」

 ヴィルより先に外に出ていたブランは、彼に続いて登ってきたシェスカの手を引きながらそう答える。

「ありがとう、ブラン。…もうしばらく地下はこりごりね」

「えーいいじゃんオレ楽しかったよ?暗闇に紛れてスキンシップ」

「あの穴から海に沈めときゃよかったな」

 下品に笑いながら続いてジェイクィズとノワールが出てくる。全員が出たのを確認したノワールは、ゆっくりと扉を閉めると思いっきり伸びをした。

「まぁ、とにかく無事出られたわけだし、助かったよ! ありがとう、ヴィルにシェスカさん!」

 そう言いながらぎゅうっとシェスカの手を握って上下にぶんぶんと振り回す。

「わ、私たちは別に何もしてないわよ?」

「いやー退屈しなかったし! 楽しかったよ!」

「それはジェイクのセクハラを放置してたって捉えていいのかしら…?」

 ノワールもブランも無言でにっこりと笑う。
 ふと、握られた手に少し違和感を感じた。それが何なのかわからないうちに、ノワールは彼女から離れると、そのままくるくると回りながら大きく手を振った。

「それじゃあねー! また会うことがあれば、」

「そんときはよろしく!!」

「ちょっ引っ張んなってのクソガキ! ああああ! シェスカちゃんまた会おうねー!!!」

 ブランもそれに続いてジェイクィズを引き摺りながら、彼らは街の方へと消えて行った。

「行っちゃったな…ってなにそれ?」

 すっかり目が慣れたのでゴーグルを元の位置に戻しながら、ヴィルはシェスカの方へやってくると、彼女の手のひらには小さな紙切れが乗っかっていた。

「地図、かしら。さっき握手したときに握らされたみたいだけど」

 がたがたに歪んだ線で描かれたそれは、確かに地図に見えなくもないが、単純に直線と黒い丸が一つ描かれているだけで、そこには一切文字が書かれていない。これでは何の地図かわかったものではない。

「何の地図だろう?」

「さぁ? とりあえず私たちも街に行きましょう。久しぶりにベッドで休みたいわ」

「それは賛成なんだけど、宿代はどうするんだよ? オレそんなに持ってないぞ?」

 貯金はシェスカの無銭飲食の肩代わりにほとんど使ってしまったので、正直財布の中はほとんどすっからかんだ。
 そして、シェスカは財布を持っていない。

「…そうだったわね。あ、そうだ」

 ぽん、と手を打つと、彼女はヴィルが持っていた道具袋の中を漁り出した。目的の物はすぐに見つかったらしく、すぐに白く、それなりに湾曲した杭のようなものを掲げてみせた。

「これ、売ったらお金にならないかしら」

「それってもしかしてあの蛇の牙か?」

 あれだけ蛇にびくびくしてたくせに牙だけになると平気なんだなと、彼女の強かさに若干呆れつつも感心する。っていうか、どうやって採ったんだよ。そしていつの間に入れたんだ。

「ジェイクに頼んで採ってもらったのよ。ヴィル的にはどう? 売れそう?」

 シェスカから受け取ったそれはなかなかの物だった。ざっと見たところ、牙として武器の素材にしてもよし、中に含まれている成分を抽出して薬にしてもよしと何にでも使い道があるだろう。正直自分がほしいくらいだ。採っておけばよかったと少し後悔。

「結構いい値段で売れそうかも。宿代くらいならいけそうだな。…で、オレがもらっちゃ、だめ?」

「あら、街にきてまで野宿したいなら止めないわよ。あんたがそう決めるなら異論はないわ」

「…休みたいしご飯食べたいので売ります」

「決まりね」

 シェスカはそう笑うと、くるりと身を翻して街の方へと歩き出した。

「今日はゆっくり休んで、明日パルウァエなりアメリなりに向かいましょ」

「だから、パルウァエに行っても師匠に追い返されるだけだと思うんだけどなぁ…」

 苦笑いを零しつつ、ヴィルは少し足取りの軽いシェスカの後ろを追いかけていった。






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