chapter.2-12


「少し遅くなったけど、なんとか間に合いそうだな、ノア」

「そうだね。あの人すこし気が短いから、怒ってないといいけど」

 そんな会話をする双子に、ヴィルは少し疑問に思っていたことを聞いてみることにした。

「そういえば、前言ってた“急ぎの届け物”って何なんだ?」

「それらしい荷物も持ってないわよね?」

 ヴィルに付け加えるようにシェスカが言う。彼らは極めて軽装で、ランプ以外の荷物はほとんどジェイクィズが持っているのだ。そして彼が持っているのも大半を旅の道具で占められており、それらしいものは見当たらなかった。

「うーん…詳しくは言えないけど、強いて言うなら“生もの”だね」

「鮮度が命!ってなわけ。ジェイクのせいで遅くなったけど、まだギリギリセーフってとこかな」

 その説明にいまいちピンと来るものがなくて、首を傾げる。その横でシェスカは何かがわかったらしく、なるほどねと呟いていた。

「えっ? 何がなるほどなんだ?」

「持ち運ばなくてもよくて、鮮度が命なんでしょ? だったらもう一つしかないじゃない」

「え? え?」

 クエスチョンマークを浮かべるヴィルの腕を引っ張って、双子はまた出会ったときのようなテンションでぐるぐると回り始めた。

「さ、もうすぐ街に着くぞー!」

「急ごう急ごう!」

「「れっつごーごー!!」」

「ちょっ、だから何なんだ? ていうか目が回るぅぅぅぅ!!」

 その様子をジェイクィズは数歩離れた位置から面白そうに眺めていた。

「おーおー、ガキどもは元気ですこと」

「あんたはあいつらの届け物、知ってたのよね」

 シェスカも楽しそうに(約一名は振り回されているだけだが)している彼らを見ながら、ジェイクィズに話しかける。

「そりゃ、オレはお得意様だしな。まぁ、今回の中身は知らねーけど」

「へぇ…一介の用心棒がお得意様ねぇ。随分物騒じゃないかしら」

 シェスカは怜悧な瞳をジェイクィズに向ける。彼はタバコに火をつけると、その瞳をいつもの調子のまま受け止めていた。深く息を吐くと、独特の匂いが辺りに充満する。

「そういうキミこそ、ただの普通の女の子が“かなり面倒なストーカー”から逃げてるだけなのに、魔石つきの剣なんて提げてたり、こぉんな辺鄙な道を使う理由をお聞かせ願いたいねェ」

「あら、痴情のもつれでこれじゃダメかしら?」

「っははは、説得力ゼロ」

 ぴん、と一瞬だけ張りつめた空気が流れた。

「…やめましょ。悪かったわね、変なこと言って」

 肩にかかる髪を軽く払い、シェスカはヴィルらのあとを歩き出した。ジェイクィズもそれに続く。

「いーや、オレもゴメンね。お詫びは体でするね」

「せんでいいわ!!」

「ねー!何してんの置いてくよー?」

 前を見れば随分先に進んだノワールがそう呼びかけてきた。ブランと彼に相当振り回されたらしく、ヴィルはふらふらと目を回していた。







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