chapter.2-11


青い光に近付くにつれ、それは宙に浮いているようなものではなく、どうやら壁面の左側から淡く光を放っているようだった。
 この通路に出る前のホールにあったあの花がもたらす青白い光とも違うその色はまさしく……

「えっ」

 シェスカが短く驚嘆の声を上げた。そのまま痛い程にヴィルの肩を掴んでがくがくと揺らした。

「よく見て、これ…!」

「…海、なのか…!?」

 そう。崩れた壁によって三メートル程に切り取られた海の風景が、そこには広がっていた。大小さまざまな魚や、海の生き物たちがその広い青の中を悠々と泳いでいる。まるでそこだけ海の中に入り込んでしまったような錯覚に陥りそうだ。
 あまりにも現実離れしたその光景に、ヴィルもシェスカも開いた口が塞がらなかった。

「ちょっと待て!このままじゃオレ達溺れるんじゃ…!?」

「あはは、その心配はないよ」

 そうノワールは笑うと、彼はその青に右手を突っ込んでみせた。右手は完全に海の中にあるというのに、水は全く溢れ出してこない。

「崩れないように魔術で防壁を張ってるみたいなんだ。急な衝撃だとこんな風に貫通して、緩やかな衝撃――まぁ、触るだけとかなら壁みたいになるんだよ」

 やってごらんとブランに促され、おそるおそる触れてみる。――硬い。まるで透明な板に阻まれているようだった。次に思いっきりそれを殴ってみると、腕に冷たい感触が広がった。

「うわ、ホントだ。確かに貫通してる…って冷たっ!?」

 腕を引っ込めると、びしょびしょに濡れている。鼻を近づけなくても潮の匂いがする。少しだけ舐めてみた。うん、しょっぱい。

「ってことは、ここって本当に海の中なんだな」

「そう言われると、なんか急に息苦しくなってくるわね…」

「人工呼吸したげよっか〜シェスカちゃん」

「いらないわよ!!」

 いつ何時もセクハラを忘れないジェイクィズは、相変わらずハートマークを飛ばしまくっている。対するシェスカは毛を逆立てて威嚇する小動物のようだ。

「ここまでくればもうサンスディアはすぐ近くだよ」

 ノワールは濡れた右手を拭きながらそう笑う。知っている場所に出たからか、その顔はどこか安心したかのように晴れやかだ。


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