chapter.2-09


 ブラン、ノワール、それからジェイクィズが一行に加わって数日。
 彼らは未だ途切れる気配のない通路を進んでいた。相変わらず暗いこの通路は、時々ぐねぐねと曲がり、道の幅が広くなったり狭くなったりする以外にほとんど変化は見られない。

「にしても…」

 同じ景色ばかりで疲れたのか、すっかり口数の少なくなった一行の中、ヴィルがぽつりと口を開いた。

「ずーっと道なりにまっすぐ歩いてきたけど、あの蛇以外に全然魔物とか見ないな」

「そういえばそうね」

 隣を歩いていたシェスカが相槌を打つ。すると、少し先を歩いているブランがくるりと振り返って得意げな顔をした。

「それは多分、あの蛇がここら一帯の魔物を食いつくしたからだと思うね。俺達もあいつ以外の魔物とか見てないし、あいつはいわばここの主だったんだ」

 そこで言葉を区切ると、今度はノワールが口を開く。

「地面が少しへこんでたのには気付いた?あれはきっと、あの蛇が何百年にも渡って這っていたから、あそこだけ削れていったんだね」

「へぇ…なるほどね」

 シェスカは納得して、地面を踵でこつこつ鳴らす。あの時気付いたあれはそういうことだったのね。と小さく呟いた。

「そんで、獲物を食いつくしちまったあの蛇は、身の程も知らずにシェスカちゃんを食おうとして、このオレ様に倒されちまって、逆においしく頂かれたってわけね」

「だから何でくっつくのよ」

 この数日でジェイクィズのセクハラにすっかり慣れてしまったシェスカは、後ろから抱きついてくる彼の顔に思いっきり裏拳をお見舞いすると、彼のほうを見向きもせずに足を早めた。
 彼も彼なりにこの手酷い歓迎にも慣れたようで、赤くなった鼻をさすりながらも、やはり懲りずに彼女に話しかける。

「いいじゃんスキンシップ。仲良くしよーよ」

「あんたがそのスキンシップとやらをやめるなら考えてあげるわ」

「えー? いいじゃん減るもんじゃねーしぃ? なぁ、ヴィル」

「いや、シェスカ嫌そうだし」

 苦笑しながらそう答えると、ジェイクィズはやれやれと肩を竦めた。

「いやよいやよも好きのうちってゆーじゃん? そういうことだろ?」

 無駄にキラキラとしたオーラを背負っているかのようにいい笑顔だ。それに反してシェスカの瞳は完全に据わっている。しかも腰に提げた剣に手をかけて、今にも臨戦態勢だ。

「もうこいつぶっ飛ばしたい…!」


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