「そういうわけなんだけど、君ら道とかわかる?」
と、ノワールは咳払いを一つしてからそう尋ねてきた。
「どこの街とかは聞いてないけど、この道をずっとまっすぐって聞いたわ」
「パルウァエからずっとまっすぐ…か。ここじゃ方角もわからないし、それだけだとどこにつくかわからないな」
シェスカの答えにうーんとブランが唸る。そのまま沈黙状態になってしまったので、ヴィルは気になっていたことを質問してみることにした。
「ところでさ、三人はどこからこの通路に入ったんだ?パルウァエやサンスディア以外にも、ここは繋がってるってことだよな?」
「ああ、僕らはギルヘンっていう遺跡から降りてきたんだよ」
「パルウァエからだと…そうだな、ずっと北西に位置してるな」
そこで一旦区切ると、双子はいきなりすっくと片手を挙げて立ち上がった。そのままくるくると回りながら遺跡の壁をランプで照らす。
「そもそも遺跡はなんなのか!」
「エルフが遺した文明の産物と謂われているが、だったら何でこんな通路が?」
「さぁ?知らない!知らなくっても、この通路が僕らにとって便利であることには変わりないからね!」
「その通り!」
双子はまるで舞台に立っているかのように、代わる代わる、踊るようにそう説明を続ける。どうやら彼らは大袈裟に物事を語る癖があるらしい。
「さ、僕らの事情は話したよ!」
「次はあんたらの番!」
ブランとノワールは、びしっとそれぞれヴィルとシェスカを指差した。
「こんな危険な通路を使ってるんだ!」
「きっと何か面白い理由があるのかも!」
と、二人は目を輝かせて顔を見合わせる。じっとしていることがないのだろうか、彼らは。
しかし、確かに彼らの言う通り、面白くはないがそれなりの理由があるわけだが、果たして正直に話すべきなのだろうか。
首をひねってシェスカの方を見ると、彼女もどうすべきかと迷っているようだった。
「ままま、そこまでにしとけよ、ブランにノア。女の子いじめちゃかわいそーデショ?」
「ナチュラルにくっつかないでくれないかしら…?」
いつの間にか復活したジェイクィズがシェスカの肩を抱いて諭す。彼女はその手を払いのけると、軽い溜め息とともに口を開いた。
「そこまでして隠すことじゃないわよ。ただ、かなり面倒なストーカーから逃げてるだけ。ヴィルはその巻き添えみたいなもんよ」
「「なんだ、意外とつまんないな」」
「だったらどんな理由なら納得するのよっ!!」
双子は至極残念そうな顔で声を揃えた。シェスカがすかさず突っ込むと、彼らはぱぁっと表情を明るくして立ち上がる。
「例えば!シェスカさんが特別な力を持ってたりとか!」
「例えば!それを理由に謎の組織に追いかけられるとか!」
「「そういうの!」」
彼らはキラキラとした瞳でこちらを見つめる。一方、ヴィルとシェスカは少しだけ唖然としてしまっていた。ヴィルより先に我に返ったシェスカは渇いた笑いをするしかなかった。
「あははは…そうね、そうなら面白かったのにね…!」
口ではそう言っているが、目が笑っていない。心の中ではきっと「大体合ってるから困ってるのよ!」とか思っているに違いない。ヴィルはなんとなくそう確信していた。
「あ、そうだ!もしよかったら、街に着くまで君らと一緒に行かせてよ!」
ノワールはいいことを思いついたと言わんばかりにそう提案した。一瞬眉を顰めたシェスカだが、ほんの少し間を空けて「いいわよ」と頷く。その意外な返事にヴィルは少しぽかんとしてしまった。
「ヴィルも。いいわよね?」
「えっ、オレもいいけど…」
「よっしゃ、決まり!」
双子がわいわいと話す中、ヴィルはそっとシェスカの耳に顔を寄せる。彼女もヴィルが言わんとしていることをなんとなくわかっているようだ。
「いいのか?断るかと思ったよ」
さんざん自分には帰れ帰れと断ったくせにノワール達には二つ返事で頷いたので、少し複雑な気分だ。ヴィルは、確かに頼りないけどさと心の中で呟いた。
「ほとんど一本道しか進まないんだから、断ったら不自然じゃない。…それにあの二人、自分たちのことほとんど話さずに、ずっと私達の詮索ばかりよ。変に探られるくらいなら、コソコソされるより一緒の方がマシだわ」
シェスカは小声でそう言うと、双子に向けてはっきりとした声で口を開いた。
「但し、条件があるんだけどいいかしら?」
「なんだい?お金とかだったら持ってないよ?」
「このセクハラ男なんとかして!」
もううんざりだとばかりにそう言って、シェスカは近付こうとするジェイクィズを思いっきり蹴っ飛ばした。
chapter.2-08
world/character/intermission