chapter.2-05


「あれ、人じゃないか!?」

「だったらマズいわね…このままじゃ危ないわ…!」

「おーい!!そこの人!!早くそこから逃げろ!!」

 とにかく危険を知らせようと、ヴィルは何度も声を荒らげた。そうしている間にも背後の蛇のちろちろと動く舌が体のあちこちを掠める。
冷たい汗が背中を流れ落ちて、なんともいえない不快感がヴィルを襲う。

「なにー!?どうしたのアンタらー!?」

 遠くからそう声が返ってきた。少し擦れた男の声だ。

「でっかい蛇の魔物よ!戦えないなら逃げて!」

 今度はシェスカが叫ぶ。だが、先程の声の主たちの灯りはまったく動く気配がない。
 徐々にその灯りに追いついてきたヴィルはようやくその主の姿をぼんやりとだが視認することができた。
 緩いカールの掛かった髪の長身の男と、自分とそう歳の変わらなさそうな少年が二人。少年はそれぞれ、対照的な白い髪と黒い髪をしていた。どうやら先程返事を返したのは、長身の男のようだ。
 彼は逆に通路のど真ん中に躍り出て、楽しそうな笑みを浮かべている。

「だーいじょぶだいじょぶー!よっしゃ、久々の食料確保だな!」

「ヘマして丸呑みにされないでよ?」

「だからダイジョブだっての!」

「どーだか。女の子にいいとこ見せたくてトチるに100ガル」

「えー!じゃあ僕もそれに100ガル!」

「オレ様で賭けんなクソガキども!」

 そんな場違いな言い合いをしながら、男はぶんぶんと肩を回す。
 すれ違いざまに男は短く、

「その剣借りっぞ、ガキ」

 と告げると、いつのまにかヴィルの腰に差していた剣を抜き取っていた。

「あれ!?いつのまに…!?」

「まァまァ、すぐ返すから待てって」

 男はにっこりと笑うと、迫り来る大蛇の前に立ち塞がる。
 大蛇はその大きな口をばっくりと開け、彼を今にも飲み込まんとしていた。

「何する気!?」

「離れとけよー!危ねェからー!」

 シェスカが焦ったような声を上げる。彼はそれに満足げに頷いた。

「レディース&ジェントルメン…って紳士はいらねぇや。さぁさご覧下さいな!」

 男は愉快な調子で剣を振りかぶる。
 その刃は大蛇の毒牙をくぐり抜け、そのまま大蛇の身体を真っ二つに両断していく。
 そして大蛇のスピードが緩やかになっていき、それが完全に止まった時、大蛇はその腹の中頃までをかっ捌かれていた。
 男は全く疲れた様子を見せず、見た目に似合わない優雅な仕草で血払いをすると、一礼。

「世にも珍しい、大蛇の解体ショーでございます、ってな」

 と、不敵な笑みを浮かべた。

 ヴィルとシェスカは呆然と男を見上げる。
 その後ろで、二人の少年は読みが外れたと大袈裟に嘆き合っていた。






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