chapter.2-04


「見た?」

「ああ、何か光ったよな?」

 互いに顔を見合わせて確認する。シェスカは小さくうなずくと、もう一度その分かれ道を照らしてみせた。

「なぁ、あの光、さっきより近付いてないか?」

 ずる…ずる……

 心なしか、先程聞こえた音も大きくなって聞こえてきている気がする。

「ええ。それに何かを引き摺る音ってのも」

 ちろり、と一瞬何かが鼻先を掠めた。細くて先が二つに割れていたそれは、どこか見覚えのあるものだ。だが、自ら進んでお目にかかりたいかと聞かれれば、答えはもちろんノーだ。絶対に見たくないし、先程見たサイズは規格外すぎる。

「なぁ、あれってさ……」

「言わないで。今見つけてしまったことをものすごく後悔してるから。」

「と、とにかく……」

 彼らが暗闇の中見つけたもの。
 紅く光るぎょろりとした瞳。白い鱗につつまれた大きな体。細長く、先が二つに割れた舌に、毒の滴る鋭い牙……。

 人ひとりは余裕で飲み込めそうな、大きな蛇の姿だった。


「逃げるわよ!!」

 シェスカの声を合図に全力で走り出す。
 だが、蛇のほうも逃がす気はさらさらないらしい。その巨体からは想像できないスピードで追いかけてくる。

「なんだよこいつ!?ひょっとしてあいつらの手先か!?」

「知らないわよ!あーもうなんなのよヘビにカエルに虫って!嫌なヤツオンパレードじゃないの!!」

 どうやら爬虫類と両生類も苦手らしい。シェスカの瞳が涙目になっている。

「シェスカ!魔法でどうにかなんないのか!?」

「だから“魔術”だって言ってるでしょ!だったら詠唱する時間稼いでよっ!!」

「無茶言うなよぉおおおおぉぉおおお!!ぅわ!今なんか掠った!?」

 とにかく二人は、大蛇の餌にならないよう全力で逃げるしかない。
 途中いくつか道が分岐していたが、彼らはひたすら真っ直ぐ走り続けた。
 すぐ後ろではまだあの蛇の追いかけてくる音が聞こえ続けている。

「なぁ、次の分かれ道で、曲がってみるとかっ…どう?」

 息を切らせながらそう聞いてみる。シェスカは前を向いたまま答えた。

「悪くない案だけど、それで道に迷うのはいやよ!あのヘカテって人、ずっとまっすぐって言ってたし!」

「じゃあどうすんだよこいつ!!」

「だから逃げるしかないって言ってるじゃないの!」

 そうして二人が走っていると、前方にぼんやりと光る灯りが見えた。それも一つではない。二つ…いや、三つだ。目をよく凝らしてみると、なんとなく人影のようなものが浮かび上がる。



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