chapter.2-03




「虫が苦手なら最初からそう言ってくれよ」

 痛む頬を擦りながら、ヴィルは涙目でそう言った。

「に、苦手じゃない!苦手じゃないわよ!見たり触ったりするのが無理なだけ!」

「それを苦手っていうんじゃないか」

 シェスカは顔を真っ赤にしながら必死に弁明をしているが、どう聞いても屁理屈にしか聞こえない。
 どうも先程ランプを落としたのは、ランプの光につられてやってきた蛾に驚いたからのようだった。

「そんなんで虫の魔物に遭ったらどうするんだよ?」

「魔物にそんなこと言ってらんないじゃない。燃やすわ。跡形もなく」

 かなり徹底した虫嫌いのようだ。デカガエルのときに見せた情けの欠片もない。

「どうしても無理なのよ。なんで虫ってどこにでも湧いてくるのよもう…あいつらみたい。違う、苦手って思うから苦手なのよ…苦手じゃない苦手じゃない…」

 などとぶつぶつと言い訳を呟いている。
 しばらく終わりそうにない自己暗示のようなそれを聞き流しつつ、ヴィルは周りを見渡した。ランプがなければほとんど真っ暗だった通路のずっと奥のほうが、ぼんやりとほんの少しだけ明るくなっている。

 出口が近いのだろうか。そう思った時だった。

 ずる…ずる…と何かを引き摺る音が聞こえた気がした。

「ん?」

「何?どうしたの?」

「今何か聞こえなかったか?」

「まさか虫!?」

 どうやら嫌いなものに敏感になっているようだ。その反応に苦笑しつつ、

「いや、何か引き摺ってるような感じだったかな」

 と答える。

「引き摺る?」

 少し冷静さを取り戻したらしいシェスカにランプをひったくられた。
 彼女はそのままぐるりと周りを照らし出す。
 通路の分かれ道の向こうに、何かがチカリと光った。




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