chapter.2-01


 地下通路の内部は、相変わらず真っ暗だった。
 ランプによって照らし出されたそこは、やはりどこかあの遺跡を思わせる造りをしている。ところどころに露出した木の根、細い曲線で描かれたアーチや、壁に描かれた絵画。あちこちが掠れていたり、欠けていたりしているが、それでも美しさだけは損なっていない。だが、それと同時に底知れない不気味さも孕んでいた。

「ところでさ、何であの時助けてくれたの?」

 しばらくまっすぐに通路を進んだ頃、シェスカはそう口を開いた。

「あの時?」

「初めて会った時よ」

「ああ、あれか。いや、オレも腹減って死にそうになったことあったし、金で解決できるなら、惜しむことはないかなーって」

 ヴィルは苦笑しながらそう話す。

「だからって6000ガルよ?何か目的があって溜めてたんじゃないの?」

「うーん、まぁ、そうなんだけどさ」

 かりかりと頬を掻きながら、ヴィルは相変わらずの笑顔を浮かべる。

「オレさ、孤児だったんだよ。ゴミみたいな街で、ゴミ以下の存在みたいに暮らしてた。毎日食うもんは奪い合いだし、ホントどーしよーもない生活だったんだけどさ、助けてくれたヤツがいたんだ」

 瞳を閉じると、あの真っ白な景色が浮かぶ。
 足早に歩く上等な服を着た大人たち。彼らは手に持った紙切れの束を濡れないように庇っている。
 寒い。助けて。
 そう声を出しても、振り返る者など一人もいない。
 空から降ってくる冷たいものが、ふいに止んで、見上げた先には―――
 思えば、彼のおかげで今の自分があるのだ。

「だから、オレも、何か困ってる人見ると助けたいんだ。そいつがしてくれたみたいにさ」

「そう……。でも、どうしてそれを話してくれたの?」

「シェスカだって辛いこと話してくれただろ?オレも話さないと不公平だと思って」

 それを聞くと、シェスカは「そんなことあるわけないでしょ」と深い溜め息を吐いた。

「話したくないことなんて誰にだってあるんだから。私にも、あなたにもね」

「そうだけどさ、うーん…話したかっただけ?かな」

「ああ、そう」

 そこで会話が途切れると、シェスカはふと何かに気付いたようにしゃがみ込んだ。

「どうしたんだ?」

「ずっと気になってたんだけど、この地面変じゃない?」





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