地下通路の内部は、相変わらず真っ暗だった。
ランプによって照らし出されたそこは、やはりどこかあの遺跡を思わせる造りをしている。ところどころに露出した木の根、細い曲線で描かれたアーチや、壁に描かれた絵画。あちこちが掠れていたり、欠けていたりしているが、それでも美しさだけは損なっていない。だが、それと同時に底知れない不気味さも孕んでいた。
「ところでさ、何であの時助けてくれたの?」
しばらくまっすぐに通路を進んだ頃、シェスカはそう口を開いた。
「あの時?」
「初めて会った時よ」
「ああ、あれか。いや、オレも腹減って死にそうになったことあったし、金で解決できるなら、惜しむことはないかなーって」
ヴィルは苦笑しながらそう話す。
「だからって6000ガルよ?何か目的があって溜めてたんじゃないの?」
「うーん、まぁ、そうなんだけどさ」
かりかりと頬を掻きながら、ヴィルは相変わらずの笑顔を浮かべる。
「オレさ、孤児だったんだよ。ゴミみたいな街で、ゴミ以下の存在みたいに暮らしてた。毎日食うもんは奪い合いだし、ホントどーしよーもない生活だったんだけどさ、助けてくれたヤツがいたんだ」
瞳を閉じると、あの真っ白な景色が浮かぶ。
足早に歩く上等な服を着た大人たち。彼らは手に持った紙切れの束を濡れないように庇っている。
寒い。助けて。
そう声を出しても、振り返る者など一人もいない。
空から降ってくる冷たいものが、ふいに止んで、見上げた先には―――
思えば、彼のおかげで今の自分があるのだ。
「だから、オレも、何か困ってる人見ると助けたいんだ。そいつがしてくれたみたいにさ」
「そう……。でも、どうしてそれを話してくれたの?」
「シェスカだって辛いこと話してくれただろ?オレも話さないと不公平だと思って」
それを聞くと、シェスカは「そんなことあるわけないでしょ」と深い溜め息を吐いた。
「話したくないことなんて誰にだってあるんだから。私にも、あなたにもね」
「そうだけどさ、うーん…話したかっただけ?かな」
「ああ、そう」
そこで会話が途切れると、シェスカはふと何かに気付いたようにしゃがみ込んだ。
「どうしたんだ?」
「ずっと気になってたんだけど、この地面変じゃない?」
chapter.2-01
world/character/intermission