「でも、ここまであなたを巻き込んだのは、私の責任だわ」
シェスカは振り返らずにそう言った。
「なら、あなたが無事にパルウァエに帰るまで、見届ける責任がある」
「それって…」
「どっちみち、ここを出るまでは一緒に行くしかないでしょ?」
そう言って、彼女は振り返った。森に入る前と同じ、眉間に皺を寄せた、怒っているような表情だ。しかし、どこかやわらかいその顔に、思わず笑みが零れる。
ヴィルは彼女の隣まで行くと、右手を差し出した。
「じゃあ、とりあえず、ここを出るまでよろしくな。改めて、オレはヴィル・シーナー。錬金術師」
「シェスカ・イーリアス。魔術師よ」
シェスカは左手を出そうとしたが、すぐに引っ込めて右手をヴィルのそれに重ねた。彼女は左利きのようだ。少し失敗したかな、と心の中で呟く。
「よろしくね」
不機嫌そうな彼女の手はあたたかい。
二度目の自己紹介を終えた彼らは、ゆっくりとその足を踏み出した。
―――その一歩が、世界を巡る旅への一歩だと、彼らにはまったく知る由もないのだった。
chapter.1-37
world/character/intermission