chapter.1-36


「なぁ、シェスカ」

「何?」

「オレも一緒に行ってもいい?シェスカのその旅に」

「はぁ………って、はぁぁあぁぁ!?」

 シェスカはものすごい剣幕でヴィルに詰め寄った。そういえば、森へ入る前もこんなやりとりをしていた気がする。軽く感じたデジャヴに、ヴィルは苦笑するしかなかった。

「あなたわかってるの?あんなわけわかんない奴らに追われるのよ?下手したら死ぬわよ!?」

「それはわかってるよ!でも、わかんないことをわかんないままにしておくほうが、もっと嫌だ!」

「剣の腕もへっぽこなくせに!」

「なっ…!それは関係ないだろ!」

「危険なのよ…!ホントに…!!」

 シェスカは俯いて、肩をぶるぶると震わせていた。思えば彼女は出会ってから、こういう風に他人を突き放そうとする節があった。最初はそういう性格なのだと思っていたが、彼女の話を聞いてから、ヴィルはそうではないのだと思い直した。
 彼女はきっと、とても優しいのだ。町でやたらと急いでいたのは、早く立ち去り、町の人をあいつらに襲われないようにするため。関係ないと繰り返していたのは、オレ達を巻き込まないようにするため。
 
「今までずっとひとりだったんだろ? シェスカ、たまに寂しそうな顔してた。そういうのほっとけないよ」

「嘘、私そんな顔してた?」

 シェスカは驚いたように自分の顔をぺたぺたと触る。その仕草が少しかわいらしくて思わず笑ってしまう。
 ぎろり、と思い切り睨まれた。

「…ついてきても、あなたが得するような事何もないわ」

「得するとかそんなんじゃなくて、オレはオレなりに知りたい事があるんだ。それを見つけるために、シェスカと一緒に行く。…それじゃダメかな?」

「ダメよ」

 シェスカはそう言って通路の奥へこつこつと踵を鳴らして歩き始めた。靴の音が反響して、音のない通路に響く。


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