「き、記憶喪失って…ここは誰?私はどこ?っていうアレか!?」
「他に何があるのよ。ていうかそれ微妙に間違ってるし」
「でも、その割には妙に落ち着いてないか?」
「そりゃ一年もそのまま過ごしてりゃ慣れるわよ」
ようやく落ち着いたヴィルは、未だ混乱する頭をどうにか整理する。
先程は一見真剣に話を聞いていたように見えた彼だが、実はその脳みそは様々なことが続けざまに起こったせいか、処理能力の限界に近かった。
何度もシェスカに同じ話をしてもらい、ようやく処理が追いついたのだった。
「えーと、つまり、シェスカは記憶喪失で、一年前に何故か遺跡で目が覚めたと」
そうよ、とシェスカが頷く。
「それで、近くの村で世話になってたところ、あいつらと魔物に襲われた。
で、シェスカはそれからずっとあいつらから逃げてきてて、今日この町に来たのは、その『器』とか、シェスカ自身のことの手掛かりを探すために、遺跡を目指してたってこと…であってる?」
ええ。とまた彼女は頷いた。
「じゃ、どうしてシェスカはその、自分の名前を知ってるんだ?記憶喪失なんだろ?」
「この名前が、本当に私の名前かなんて知らないわ」
そう言って、シェスカは自らの襟の中へ手を突っ込んだ。するり、と出てきたのは、太めの黒いリボンのようなもの。
高い襟の服を着ていて気付かなかったが、チョーカーをしていたようだ。
「これ、もとはバンダナだったんだけど…」
差し出されたそれには、すこしほつれているが確かに「シェスカ・イーリアス」と刺繍されていた。
「目が覚めた時につけてたのよ。だから多分私の名前じゃないかって」
これでようやくシェスカを取り巻くものが繋がったが、やはりまだわからない部分はたくさんある。その一番大きなものはやはり、『器』のことだ。
「『器』って、一体なんだろうな」
「そんなの、私が一番知りたいわ」
シェスカはすっくと立ち上がると、服についた砂を払う。
「とにかく、ここでじっとしてても埒があかないわ。早く出ましょう」
「あ、ああ。そう、だな」
ちらりと後ろを振り返る。堅く閉ざされた扉の向こうからは、相変わらず何の音も聞こえない。
chapter.1-34
world/character/intermission