chapter.1-33


 私はいつも通り、畑仕事を手伝ってたの。そしたらね、村の見回りのおじさんが、真っ青な顔して走ってきたの。
あの辺は結構魔物が多かったから、きっと援軍を呼びにきたのかなって、そう思ってた。
 でも、違った。私を見つけておじさんは言ったわ。

「早く逃げろ。お前が狙われてる」って。

 なんのことかわからなかった。でもね、すぐに思い知らされたわ。嫌ってくらいに。

 魔物が、村を襲ってたの。それもすごい数。
 もちろん若い衆が立ち向かっていったわ。でも全く歯が立たなかった。
 それもそうよね。斬っても斬っても、またくっついちゃうんだもの。


「それって…!」

 あのデカガエルの姿がヴィルの頭をよぎる。シェスカはそれに頷いてみせると、またとつとつと話し始める。そこに何の感情も込もっていない、淡々とした声だ。


 村はあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図よ。家は燃やされ、子供の泣き叫ぶ声が響き渡る……。

 そんな中に、あいつらはいたわ。

 真っ赤に染まったでっかい武器持って。私を見つけて、あいつは言った。

「『器』を見つけた」って。

 私は逃げたわ。あいつらを見た瞬間、体が勝手に動いたみたいに。ひたすら逃げた。逃げて逃げて、ひたすら逃げたら、いつの間にかまた村に戻ってきてた。
 目を覆いたくなるような光景だったわ。誰も生き残ってなんかいなかった。

 それから私は、あいつらから逃げる日々の始まりよ。
あいつらは私を追いつめては、『器』だの『鍵』だのわけわかんないこと聞いてくる。
 私なりに『器』や『鍵』のことも調べたけど、何の手掛かりもない。



「それで、遺跡に?」

「ええ。私が目が覚めたのは、村の近くの遺跡だった。じゃあ、私に関する何かはきっと、遺跡にあるんじゃないかって…それで」

「ちょっと待った!」

 ヴィルはさらに続けようとするシェスカを制する。彼女が追われ始めた経緯はまぁわかった。この遺跡にやってきた理由もだ。だが、彼女の話には、決定的な何かが足りていない。

「シェスカ、ちょっと質問いいかな?」

「ええ、どうぞ」

「遺跡で目が覚めたってどういうこと?それにお世話になってた村って…?」

 普通、その村で生まれ育っているなら、「お世話になった」など言わない。
 シェスカは質問の意味を理解すると、忘れてた、と小さく呟いた。

「まだ言ってなかったわね」






「私、記憶喪失なの」




 まるで何でもないように言うシェスカに、ヴィルは驚いて声も出せなかった。






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「見えない臓器の名前は」
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