chapter.1-31




「師匠!!!ローランド!!!」

 どんどんと、もはや石の壁になった扉が鈍い音を響かせる。何度叩いても、殴っても、まったくびくともしない。
 外の音が聞こえるか試してもみたが、それも無駄な努力なようで、自分たちの息づかい以外は何も聞こえなかった。

「退いて!」

 その声に振り返ると、いつの間にか魔法を詠唱し終わっていたシェスカが、その剣の切っ先を扉に向けていた。
 足下に収束している魔方陣の光が、暗い通路から彼女を浮かび上がらせている。

『砕け!グレイヴ!!』

 地面から土の塊が槍のように迫り出てきた。不釣り合いな轟音を立てて扉へとぶつかる。
 もうもうと立ちこめる土煙に思わずむせ込みながら、道具袋に入っていたランプで扉を照らした。

「やったか!?」

 土煙がゆっくりと晴れていく。


 ――扉には、一切傷がついていなかった。



「ダメね。結界だわ。びくともしない」

 シェスカはまじまじと扉を見つめる。まったくの無傷に彼女のプライドが少し傷ついたようだ。また魔法を詠唱してぶつける。
 そうしてしばらく、どうにかして扉を開けようと奮闘していた彼女だったが、さすがに疲れたらしく、肩で息をしながらぺたんと座り込んでしまった。

「大丈夫か?」

「へ、平気よ…」

 明らかに平気そうじゃない。
 ヴィルは腰のポーチの一つから水筒を取り出すと、彼女に差し出した。シェスカは素直にそれを受け取る。

「やっぱりダメ。結界が強すぎるわ」

「そっか…」

 ヴィルはそっと扉に手を触れてみた。手袋越しに冷たい石の感触が伝わる。 ヘカテやローランドは無事だろうか。それだけじゃない。さっきのジブリールの二人も気になる。
 ヴィルの脳内に最悪の結果が浮かぶ。彼はそれを振り払うように、ぶるぶると頭をふった。

「……私のせいだわ」

 静かな通路に、ぽつりとシェスカの声が響く。
 彼女は俯いて、ただ水筒を指先が白くなるほど握りしめていた。


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