chapter.1-27
「ほらどきなさいそこの馬鹿。そんな無茶な開き方するワケないでしょうが」
「じゃあどうやったら開くんだよ?」
「合い言葉があるのよ」
ヘカテがおもむろに扉上部の花をどけると、そこには三日月のようなマークが刻まれていた。
「月…?」
「つまり、これを言えばいいってこと?」
ヘカテが頷く。シェスカは扉に手を触れると、すうと息を吸い込んだ。
『イシル』
がこん!と何かが外れる音がした。扉は中央から二つに分かれ、そのままゆっくりと、岩のこすれる音を響かせながら開いていく。
「おおお!」
ヴィルは目をきらきらさせながら開いていく扉をぺちぺちと叩いてみた。どういう仕組みかはわからない。しかし一錬金術師としては、知的好奇心がものすごくくすぐられる。
「この道をずっとまっすぐ行けば、適当な街に出られるはずよ。そこからアメリを目指すといいわ。ただ、魔物がいるかもしれないから充分気をつけなさい」
「ええ、わかったわ。ありがとうございます」
シェスカは軽く会釈をすると、扉の向こうへ足を踏み入れた。ひやりとした風が肩を撫でる。
「あ、そうそうコレ餞別ね。今度からはお代もらうわよ」
ヘカテはそう言うと、ローランドの持っていた袋をひったくると、彼女のほうへ放り投げた。危うく落としそうになるが、なんとか受け取る。どうやらヘカテは物を投げるのが癖のようだ。中を見ると、様々な道具や薬が入っていた。
「先生、このために持ってきてたんですか?」
「いいえ。たまたま」
ヘカテはしれっと言う。
「じゃあね、ヴィル。ここでお別れね」
シェスカはくるりと身を翻すと、ヴィルに向かって微笑んだ。
「ちょっと…じゃないわね。かなり頼りなかったけど、戻ってきてくれた時、ちょっと嬉しかった。ありがと」
「あ、ううん。オレのほうこそ…」
bkm