「ついたわ」
長い階段が終わり、しばらく何もない通路を歩くと、八角形のホール状になった大きな部屋に出た。細い柱に、何本もの蔦のような装飾が美しい曲線を描いている。天井部分にはどういう理屈かはわからないが、淡く青白い光を放つ無数の花がびっしりと生えており、ランプがなくとも明るくこの部屋を照らしていた。
「どこにも通路なんてないですよ?」
ぐるりと周りを調べてみたローランドは不思議そうに首を傾げた。ヴィルもシェスカも同じように調べてみたが、この部屋には何も変わったものなど見当たらない。
「隠されてるんだもの。そこの一箇所だけ花まみれの壁あるでしょ」
ヘカテに指差されたのは、入ってきた場所からほぼ正面にある壁だった。言われてみると、そこだけやたらと天井に生えている花と同じものが絡み付いていた。
「これ、扉か?」
ヴィルがあまり花を傷付けないように剥がすと、うっすらと壁に切れ込みのようなものが見えた。周りには何か文字が彫り込まれているが、何が書いてあるのかさっぱりだ。
「エルフ語よ。この遺跡はエルフ族のものだから」
シェスカはヴィルの横から壁の文字を指でなぞった。
「読めるのか?」
「簡単なものなら読めるけど、これはさっぱりね。エルフ語の中でも古い言葉みたい」
「そっか…」
ヴィルはシェスカのほうを向こうとした。が、思わず止まってしまう。意外と顔が近かったのだ。長い睫毛に形のよい眉、少し乾燥しているが、桜色の唇。意志の強そうなアッシュグレイの瞳は、今はエルフの文字に釘付けだ。
彼は少し居心地が悪そうに、また体をもとの向きに戻すしかなかった。
chapter.1-25
world/character/intermission