chapter.1-18


「早くッ!」

 アシュリーはヴィル達に短くそう言うと、フードの少女に向かって走り出す。彼女は八の字を描くようにすばやく槍を振り回しながら、少女を牽制した。しかし、少女のほうが一枚上手のようだ。あっさり躱すと、大剣によるパワーで押し切ってくる。
 それでもアシュリーは何度も少女に向かっていった。体制を立て直したレオンもそれに加わる。
 シェスカはぐっと唇を強く噛み締め、ヴィルに向き直った。

「ヴィル、行くわよ」

「でも、あの人達…!」

 ガッ、と強くシェスカに肩を掴まれた。俯いているので表情はわからない。けれど、ヴィルの肩を掴むその手は震えていた。

「…わかった。行こう」

 ヴィルはその震える手を握ると、しっかりと頷いた。


「おっと、そーゆーわけにはいかないなァ」


 背後から声が聞こえる。今度は若い男だ。ヴィルはとっさに振り返った。あのフードの少女と同じデザインのものを羽織った、長身の男だ。
 男はにやりと笑うと、一言。

「バイバイ」

 首元に異様な冷気を感じてそちらに目を向けた。少女が持っていた、あの禍々しい大剣によく似たそれが、鎌だとわかるまで数瞬。

「ヴィ…ッ!!」

 シェスカの息を飲む声が聞こえる。
 ヴィルの首に刃が食い込もうとした。
 
 その時。

「邪魔よ雑魚!」
 
 ヴィルの視界に入ったのは、サンダル履きの足が、男を思いっきり蹴っ飛ばす瞬間だった。
 ぺたんと腰を抜かしたヴィルはその姿を確認すると、思わず目を見開いた。

「し、師匠!?」

 その足の持ち主は他でもない、ヴィルの育ての親であり、錬金術の師――ヘカテ・ミーミルのものだった。


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