chapter.1-14


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「二重詠唱…ですか。油断しました」

 立ちこめる霧の中、あいつの声が聞こえた。これっぽっちも焦った様子がないのに腹が立つ。

「私だって、ただあんたたちから逃げてるわけじゃないんだから」

 だからシェスカも、挑発するように言ってやった。彼女がここでこいつを引き留めないと、こいつはきっとヴィルを始末しに行くだろう。それだけはダメだ。
 彼は私とは無関係だもの。これ以上巻き込むわけにはいかない。パルウァエの人たちもそう。
 これ以上、私のせいで誰かが傷つくのはごめんだ。

―――じゃあ、あいつらの言いなりになればいいじゃない

 一瞬浮かんだ考えを、唇をかんで押さえ込んだ。じわりと口内に広がる血の味。
 あいつらに捕まるわけにはいかない。そうだ。捕まってはいけない。彼女の何かが、ずっとそう告げている。
 シェスカは剣を構えた。さっき唱えた体を軽くする補助魔術の効果が切れる前に、ここから離れなければ。
それから、ヴィルの逃げる時間も稼がなくてはいけない。……できるだろうか。いや、やるしかない。いままでだってずっとそうしてきた。

「いつまで考え事に没頭する気です?」

 唐突に、後ろからあいつの声が聞こえた。しかも、すぐ近く…!!
 視界の端に映るのは、あの矢印みたいな大剣の先。

「っ!!」

 ぎぃぃん!と鈍い音を立てて、何とかあいつの大剣を弾く。しかし、あまりに重いその一撃に、剣を握っていた左手がじんじんと麻痺している。

「見つけた」

 あいつは愉快そうに言う。
 そのまま横薙ぎの一閃がシェスカに向かってきた。このままじゃ防御が間に合わない…!
 瞬間、イメージする。堅くて斬撃を通さないもの!

『盾よ!』

 言葉に出した刹那、まぶしい光の盾が彼女を包んだ。けれど、あいつの斬撃を受けた盾は粉々に砕け、シェスカはその衝撃で一気に吹っ飛ばされる。途中、石かなにかにぶつけたらしく、肩が熱を持ったように熱く、皮が裂けてどくどくと脈を打っていた。


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