chapter.1-13


*****

「目標、見失いました。民間人に魔術師がいたようで、その魔術のせいかと」

 もうもうと立ちこめる霧の中、木陰に隠れている人物がいた。燃えるような赤い髪をした、若い女性だ。
 彼女はオリーブ色の軍服に身を包み、この木陰で先程からずっと様子を伺っていたのだ。

『魔物はどうだ』

 彼女がつけているピアスから、男の声が聞こえた。彼女は耳元を押さえ、それに魔力を送り込む。こうしないと声が送れないからだ。

「あらかた片付けました。現在レオンが対応しています。ですが、数が多いため町に被害が出る可能性があります」

『わかった。対応しておこう。引き続き目標の監視を頼む』

「了解しました」

『民間人がいると言ったな。その保護を最優先だ。俺達の仕事を忘れるな』

「わかっています」

 ぷつん、と通信が切れる音がした。彼女はそれを確認すると、周りを見渡した。
 探していた人物は、突如発生した白い霧に呑まれて今はその姿が見えなくなっている。

「雨に霧…最悪ね」

 彼女がそう独りごちた直後、がさがさ! と草が揺れる音がした。瞬時に槍を構える。

「いたたた…アシュリーさん、ここにいたんですか?」

 現れたのは彼女と同じ軍服を着た気弱げな青年だった。淡い金髪とブルーの瞳が、さらにそれを強調しているように見える。
 彼女――アシュリーは、敵でなかったことで一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐに眦をつり上げて、彼の頭を思い切りひっぱたいた。


「馬鹿! 静かになさい!」

「い、今の叩いた音のほうがうるさかった気がします………」

 ずきずきと痛む頭を押さえて彼はアシュリーの隣まで来ると、彼は彼女と同じように身を潜め、霧の奥へと目をやった。

「魔物はどう、レオン?」

「ここを囲んでいたやつはとりあえず。…霧がひどすぎて見えませんね」

「いい迷惑だわ。このままじゃ踏み込めない」

「隊長はなんて…?」

「保護を最優先、だそうよ」

「えぇ…まだ戦うんですか?アシュリーさんだって消耗してるでしょ?」

 青年――レオンは、眉をハの字にしながら溜め息を吐いた。もう魔物退治でへとへとになってきているのだ。

「僕らはスタイナー隊じゃないですか。隊長やガジェッド隊を待ちましょうよ」

「駄目よ。何のための私たちなの」

 二人がそのまま再び様子を伺っていると、近くから金属のぶつかる鈍い音。それも数回だ。二人の間に緊張が走る。

「行くわよレオン」

「え、でも真っ白ですよ!?」

「それでも行くの!」

 アシュリーは愛用の槍をしっかりと握りしめると、白に溶けて消えていく。レオンも慌てて、それに続いていったのだった。



prev next

bkm
world/character/intermission
×
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -