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「目標、見失いました。民間人に魔術師がいたようで、その魔術のせいかと」
もうもうと立ちこめる霧の中、木陰に隠れている人物がいた。燃えるような赤い髪をした、若い女性だ。
彼女はオリーブ色の軍服に身を包み、この木陰で先程からずっと様子を伺っていたのだ。
『魔物はどうだ』
彼女がつけているピアスから、男の声が聞こえた。彼女は耳元を押さえ、それに魔力を送り込む。こうしないと声が送れないからだ。
「あらかた片付けました。現在レオンが対応しています。ですが、数が多いため町に被害が出る可能性があります」
『わかった。対応しておこう。引き続き目標の監視を頼む』
「了解しました」
『民間人がいると言ったな。その保護を最優先だ。俺達の仕事を忘れるな』
「わかっています」
ぷつん、と通信が切れる音がした。彼女はそれを確認すると、周りを見渡した。
探していた人物は、突如発生した白い霧に呑まれて今はその姿が見えなくなっている。
「雨に霧…最悪ね」
彼女がそう独りごちた直後、がさがさ! と草が揺れる音がした。瞬時に槍を構える。
「いたたた…アシュリーさん、ここにいたんですか?」
現れたのは彼女と同じ軍服を着た気弱げな青年だった。淡い金髪とブルーの瞳が、さらにそれを強調しているように見える。
彼女――アシュリーは、敵でなかったことで一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐに眦をつり上げて、彼の頭を思い切りひっぱたいた。
「馬鹿! 静かになさい!」
「い、今の叩いた音のほうがうるさかった気がします………」
ずきずきと痛む頭を押さえて彼はアシュリーの隣まで来ると、彼は彼女と同じように身を潜め、霧の奥へと目をやった。
「魔物はどう、レオン?」
「ここを囲んでいたやつはとりあえず。…霧がひどすぎて見えませんね」
「いい迷惑だわ。このままじゃ踏み込めない」
「隊長はなんて…?」
「保護を最優先、だそうよ」
「えぇ…まだ戦うんですか?アシュリーさんだって消耗してるでしょ?」
青年――レオンは、眉をハの字にしながら溜め息を吐いた。もう魔物退治でへとへとになってきているのだ。
「僕らはスタイナー隊じゃないですか。隊長やガジェッド隊を待ちましょうよ」
「駄目よ。何のための私たちなの」
二人がそのまま再び様子を伺っていると、近くから金属のぶつかる鈍い音。それも数回だ。二人の間に緊張が走る。
「行くわよレオン」
「え、でも真っ白ですよ!?」
「それでも行くの!」
アシュリーは愛用の槍をしっかりと握りしめると、白に溶けて消えていく。レオンも慌てて、それに続いていったのだった。
chapter.1-13
world/character/intermission