chapter.4-26


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 疲れているだろうから、とサキやジェイクィズとは解散になり、ひとまず宿に戻ろうとしたのだが、シェスカの「大事をとって」の言葉でヴィルはまだジブリールの中、第二分隊の病室に残っていた。
 ヴィルをベッドへ寝かしつけ、その脇でシェスカは彼が動かなくてもいいように水を持ってきたり、果物を持ってきたり。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのはありがたいのだが……。

「もうなんともないって、ロゼさんも言ってたじゃん」

「でも何かのきっかけでもし傷が開いたりでもしたら……」

「だから、その傷も他の傷も、まるっとシェスカが治したんだろ?」

「それはそうなんだけど、でも……」

「あー!! もう大丈夫だから!! シェスカは休む!! 聞いたぞ、ロクに寝てないって!!」

 と、まあ先程からこんな感じである。ヴィルの怪我なんて擦り傷すら完治しているし、むしろ元気が有り余ってるくらいなのだ。一方シェスカはというと、時々足元が覚束なかったり、重そうな瞼を閉じないように時折頬を叩いていたり。こっちのほうが病人と形容すべきではないかと思う。
 
「そうよ。あなたが寝てなきゃダメそうね」

 様子を見に来たジブリール第二分隊隊長、サラサネイア・ロゼが、やれやれといった具合に溜息を吐いた。その後ろには苦笑いを浮かべる第二分隊隊員、レタ・オルバネハの姿もある。

「平気です! 寝てないのだっていつものことだし」

 シェスカは頑として聞き入れるつもりはないようだ。そんな彼女を見て、サラサネイアは不敵な笑みを浮かべ、

「あら? これから長旅になるのよ? その途中あなたが倒れたらどうするの? みんな大迷惑よ〜? ただでさえあなたは狙われてるんだし、弱ってるところを叩かれたら……」

 と、畳み掛ける。それに一瞬たじろいだシェスカだが、まだ意志を曲げようとしない。そこにさら追い討ちをかけるようにサラサネイアは続けた。

「それに、一緒に行くのはむさ苦しいヤロー共なわけだし、必然的にあなたの看病も彼らがするわけよねぇ」

「わ、わかった! わかりました!! ちゃんと休みます!!」

 サラサネイアのこれが決定打となったのか、それともヤケクソなのかシェスカはそう叫ぶように言い放つと、逃げるように去っていった。

「あ、レタ。彼女がちゃんと休んでるかついてってあげて」

「了解ですっ! ヴィルくんもお大事にね!」

「は、はい。ありがとう、レタさん」

 レタは小さくヴィルに手を振ると、「シェスカさん転ばないように気をつけてくださいよ〜!」と、彼女の後を小走りで追いかけに行った。
 それを見届けたサラサネイアはふぅ、と小さく息を吐いた。

「責任感が強すぎるのも困りものね、彼女」

「え?」

「あなたが寝てる間ずっと看病してくれてたのは聞いてるわよね? で、その時に彼女に聞いたのよ。どうしてそこまでするのかって。
 そしたら彼女、『自分のせいで巻き込んで、大変な目に遭わせて、しかも死んじゃいそうな大怪我までさせて。何もしないなんてできない。巻き込んだからには、ちゃんと無事に家まで帰してあげなくちゃいけないの』って」

 サラサネイアは似ていないモノマネを交えながらそう話してくれた。確かにそんなことをたまに言っていたなぁ、と思わず苦笑する。

「ははは、オレが勝手にしたことばっかだから、気にしなくていいのになぁ」

「まぁ、私が彼女の立場だったらめちゃくちゃ気にするけどね。もう、罪悪感でいっぱい! ……に、ならない?」

「なりますね……」

 確かにシェスカの立場に立つとオレも同じようなことをしたかもしれないな。とヴィルは頬を掻いた。そんなヴィルを見て、サラサネイアは柔らかく微笑んだ。あたたかく、包み込むような笑顔だ。

「だから、あなたも今日は眠りなさい。ゆっくりとね」

 起こしていた半身を倒してに横になると、彼女がさら、と前髪を撫でてくれた。

「サラサネイアさんって、なんだかおかあさんみたいだ」

「ふふふ、こんな大きな子どもはいないんだけどね」

 今度はぐしゃぐしゃと髪を撫でてそう笑うサラサネイアは、母親という言葉がしっくりくる。もっとも、ヴィルは孤児だから、母親というものをろくに知らないが。

「師匠もオレが風邪引いた時とかは、さっきみたいに撫でてくれて……あれ、ローだったっけ?」

「その人たちがあなたのおかあさんね」

「多分、そうかな……うん。オレの家族」

 何故だかサラサネイアと話していると、先ほどまでは全く重くなかった瞼が下りてくるのを感じる。
 ホームシックというのだろうか。パルウァエの、あのアルキュミアの狭苦しい雑多なあの空間が恋しかった。


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