chapter.4-10


「――シェスカ?」

「ようやく見つけた! あんたそこ動いちゃダメだからね!!」

「あっシェスカちゃん!?」

 制止するジェイクィズの声。
 ぽかんと呆気に取られているヴィルをよそに、シェスカはふわり、と窓から飛び降りる。

「ちょっ!? シェスカ!?」

『風よ集え。我に加護を』

 シェスカが短くそう詠唱すると、着地と同時に風が巻き上がる。衝撃を相殺させる魔術のようだ。華麗に三階からの着地を決めたシェスカはそのままずんずんとこちらへ向かってくる。

「あの、シェスカ? なんか怒ってる……?」

 目の前まで来ると、彼女はじーっとこちらを睨みつけてきた。なんかシェスカに悪いことでもしたっけ……と脳みその中をサルベージしても、特にこれといって何かした覚えはない。
 シェスカは無言のままヴィルの服の裾を掴むと、

 べりっ。

「キャ――――――――――!?」

 勢いよく捲られた。唐突な出来事に思わず変な声がでてしまった。
 シェスカはそんなことを気にも留めず、さらにそのままペタペタと腹のあたりを触りはじめた。
 なんだこれは。どういう状況かさっぱりわからない。ジェイクィズもびっくりなセクハラっぷりじゃないだろうか。いや、あいつは男相手にはセクハラしないか。ってそうじゃなくて!

「ななな、何してんのシェスカさん!?」

「うん。傷、綺麗に治ってるわね」

 ぱんっ、と最後にヴィルの腹を叩いて、シェスカは満足げに呟くと、「よかった」と、気の抜けたように微笑む。が、すぐにその笑顔も引っ込み、またこちらを睨みつけた。

「何してるの! 病み上がりの怪我人のくせに! あっちこっちうろちょろするんじゃないわよ!」

「ひょっとして心配してくれてたのか?」

 意外というか、なんというか。少し嬉しい気もする。

「と、友達は心配するものでしょっ! それに、私にはあなたを無事に帰す義務があるんだからね!」

 怒ったように息を荒らげながら、ぷいっとそっぽを向かれた。そんな義務どこにあったっけと苦笑する。

「シェスカちゃん〜、置いてけぼりはひでえよ〜」

 ぼりぼりと頭を掻きながら、ジェイクィズがこちらへ歩み寄ってきた。どうやらシェスカと一緒に行動していたらしい。その後ろにはサキも続いている。シェスカと同じ方法で降りてきたようだ。

「あっ、ベルちゃん今日もかわいいね」

「…………セレーネ」

 ジェイクィズが頭を撫でようとベルシエルに手を伸ばすと、ひらりとそれを躱して、彼女は反射的にサキの後ろへと隠れてしまう。その仕草は見た目よりもかなり幼く見えた。
 サキは袖を掴むベルシエルの手をやんわりと解くと、一歩前に歩み出た。

「シェスカ・イーリアス、それからヴィル・シーナー。取り込み中のところ悪いが、今回の件で局長があんたらに話を聞きたいんだそうだ。来てもらえるか?」

「……前みたいに拘束だとかそういうのは断るかな」

 そう答えてから少し身構える。正直、ジブリールはあまり信用したくない。

「あの時はすまなかった。こちらも色々あってな」

 サキは深々と頭を下げた。あっさりそう来られると少し反応に困る。シェスカのほうを見ると、彼女も意外だったらしく瞳をぱちぱちと瞬かせていた。

「局長なら、あんたを追っている連中について、なにか役に立つ情報を知っているかもしれない。詫びの代わりにはならないだろうが、こちらから口添えしておこう」

「……わかったわ。私は行く」

 シェスカはゆっくり頷くと、ヴィルのほうを見やった。あなたはどうするの、と言いたげだ。答えは決まってる。

「オレも行く!」

 それを聞いて、サキは短く「感謝する」とまた頭を下げた。

「そうと決まればサクッと行こうや」

 ジェイクィズが能天気な声を上げる。ちゃっかり肩を抱かれているベルシエルは今まで見た中で最上級に不機嫌そうだ。全力で抵抗している。

「ジェイクィズ触らないで臭い!」

「臭っ!?」

 ガーンと大袈裟にショックを受けるジェイクィズ。その隙にベルシエルはまたサキを盾にするようにして壁を作った。

「ねぇ、その局長さんはどこにいるの?」

 シェスカがサキに問いかける。

「本部の自室にいるはずだ。案内する」

 彼はそう答えると、踵を鳴らして歩き始めた。それにひょこひょことベルシエルが後を追う。
 ヴィルとシェスカは一度顔を見合わせると、その後ろに続いていった。


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